異変


夕暮れ時、ルートたち3人は村へとたどり着いた。
いつもは静かな村が、酒場を中心に賑わっていた。
好奇心旺盛なテルが賑わいの中心へと駆けていった。
ルートはゆっくりとついていった。

酒場には踊り子が舞を舞っていた。
連れが奏でる物悲しいギターの音色にあわせて
激しく・悲しく。
透けるほどに白い肌に、極彩色の衣装がひらめく。
とがった耳、瞳は紅。

「エルフ…ですね」
テルの言葉に、ルートは頷く。
確かにエルフだ。しかし、あの瞳に宿しているのは…
「復讐…」
「え?ルート?何か言いましたか?」
「いや、何でもない。それより、樹皮を渡すんだろ、そろそろ行こう」
彼らは賑わいの輪から離れていった。

夕暮れ時の、美しい空。
村の上にゆったりとかかった空。
「ナンセンスなほど、すごい色ですね」
テルが見上げてつぶやく。
ルートがつられて見上げ、
「なんと言っていいか、わからないな」
と、返した。
隣でイリスも見上げている。
「ねぇ」
「うん?」
「愛の色ってどんな色かしら?」
「知らない」
「あたしが愛の色を見つけたら、見てくれる?」
「わからない」
「もう!ルートってば!」
そのほかにもイリスは、何か言っていたようだったが、
ルートはよくわからなかった。

「じゃあ、あたしはここで、バイバイルート」
イリスは自宅の教会に戻っていった。
イリスを見送り、彼らはヴァーン研究所に樹皮を届けた。
テル親子が、もう遅いから泊まっていけと、うるさかったが、
ルートはとりあえず、村の宿屋に泊まった。

翌日未明、
ルートは大きな物音で目が覚めた。
方向はヴァーン研究所。
本能的に嫌な予感がした。
剣を持って駆けていったのは、そのせいだ。

研究所の庭では、テルとエレキ博士が何か大きな物体と戦闘中だった。
金属を身体にまとわりつけて、ぎこちなく動く。しかし強力な攻撃力を『それ』は持っていた
「ルートっ!すみません、手伝ってくださいっ」
テルはおそらく魔力を消耗して疲弊しきっている。
『それ』が何なのかわからないが、ルートは剣を構え、地を蹴った。
斬っ!
切り落とした『それ』の破片は、金属片の中に『樹皮』を宿していた
「これは…?」
疑問に陥るルートの背後に『それ』の攻撃
気づくのが遅れる
(避けられない)
そう思った瞬間、

「ファイア!」
火炎弾で『それ』の攻撃触手は醜く炎上する。
振り向くと、酒場で見かけた踊り子とギター奏者がいる。
「君はさがっててっ!ディーン君、援護するわよ!」
言葉と同時にギター奏者、ディーンが細身の剣を構え、駆ける。
踊り子は呪文の詠唱をはじめる。
「踊り子さん、援護、頼みますっ!」
ルートもそう言い残して駆けた。

テルはへたり込んで彼らの戦いを見ていた。
『あれ』は数刻前までは、父親の作っていたロボットだった。
最後の仕上げに、樹皮を使ったとたん、『あれ』になった。
何時の間にか、父親も側にいた。
「何が起こったんじゃ…」
「ナンセンスです…」
剣士二人と踊り子一人は学者親子の見ている前で
間もなく、ロボットだったものを倒した。
大きな身体は崩れ落ち、その残骸を昇りはじめた朝日が照らした。

研究所の被害は思ったほどではなかった
学者の親子はわかる範囲で、事情の説明をした。
「やっぱり…樹皮が原因じゃないんだろうか、と…」
テルはそう暫定的結論を出して、
「ところで…あの、助けていただいて失礼なんですけど、お名前は…」
「あ、ごめんなさぁい。あたしはラミリア。踊り子。そんでこっちが…」
「ディーンだ」
秀麗な剣士はそれだけ告げた。肌が白く、髪は金。そして瞳は緑色をしていた。
饒舌な踊り子と寡黙な剣士は互いの求めるものを得るため、
今のところ共に旅をしているという。
「そのうち別々の道を行くことになるとは思うけどね、ま、旅は道連れってね」
ラミリアはカラカラと笑った。

旅人二人が宿に戻った後、
エレキ博士がロボットの残骸の分析結果を持ってきた。
「これは…樹の育つ土壌自体がおかしくなったとしか考えられない。いや、土壌ではなく、環境自体がおかしいそう結論づけるしかない…」
このあともいろいろと難しいことを言っていたが、要はそういうことらしい。
「テル」
話は急にテルに振られた。
「はい?」
「至急、魔法王国ラシエルに行って、この月の森の環境異変について調べてきてくれ。あそこの図書館ならそれ相応の資料があるはずだ」
「ラシエルまで?あの道のりを?そんなナンセンスなっ!」
テルはだだをこねた。
ルートが話に割り込む。
「博士、テル、僕も行こう。それでどうでしょう?」
テルのだだがぴたっと止んだ。
「まぁ…ルート君がついていてくれるに越したことはないが…」
「決まりですね、至急といっても、先の戦いで僕達も疲れています。明日出発でいいでしょうか?」
半ば強引に旅の日程が組まれた。

翌日
ルートは昨日世話になった二人に会いに行った
「そう、行っちゃうんだ…そのうちまたどこかで会えるといいわね」
挨拶をして、去ろうとすると、
「リューンという言葉を聞いたことはないか?」
ディーンが問い掛ける。
「さぁ…」
「そうか、旅先で聞くことがあったら、私に再会するまで覚えておいてくれ」
ルートは頷くと、二人のもとをあとにした。

研究所では既にテルが旅支度を整えていた。
そして、その側にいるのは
「イリス?」
彼女はルートを認めると、駆け寄ってきて言葉の嵐を浴びせた
「なんで、なんで、あたしに言わないでどこかに行こうとするの?あたし、すごく心配してるんだから!ルートに、もしものことがあったら、あたし、あたし…」
ルートとテルは再び諦めて、彼女を連れて行くことにした。
テル曰く、「置いていって、呪われるよりはいいでしょう…」

ラシエルへは、
村の東の砂漠を北に越え、さらに北に行き、ディアン王国へ着く。
ディアンからさらに東に行く。
そうすると、雪原があり、さらに行くと山岳地帯に出る。ラシエルはその、山岳地帯にある。

軽い鎧と愛剣。食料と水、薬がいつもより多めの他はあまり変わらない装備だ。
「行くか」
三人は村をあとにした。


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