砂漠の盗賊


村の東には、砂漠というほどのものではないが、荒れ地が広がっている。
ここを北に抜ければ、戦士たちの国、ディアンへとたどり着く。
ただ、噂によると、この砂漠には盗賊が巣食っていて、
金品を強奪しているらしい。
「触らぬ神に祟りなし。さっさとディアンへ行こう」
ルートはそう提言し、仲間はそれにしたがった。

スコーピオンが何匹か出た以外は何事も無く、
彼らは、ディアンの国境にあたる河へと到着した。
しかし…
「ここから先へはとおさねぇぞ!」
「なんで!」
「どうしてもだ!」
一人の盗賊に、一方的な通せんぼを食らった。
仕方がないので、近くの小屋の主に許可を取り、そこで一夜を明かすことにした。
小屋の主は快く、泊めてくれた。
「しかし…あの盗賊にも困ったものだ…」
「本当に、僕達ラシエルまで行きたいのに…」
「いや、あの通せんぼを、盗賊の親分のためと思っているから困る。全く、困っているのは盗賊の連中もなのになぁ…始末に終えんよ」
卓上に、紅茶が置かれた。
置いた主を見ると…そこには大きなかぼちゃ頭が…
「か、かぼちゃかぼちゃ!」
テルは慌てふためき、椅子から落ちた。
「失敬な!私には鉄観音南瓜丸という立派な名前がある!」
小屋の主は少し前から南瓜丸も足止めを食らっていて、ここに置いてあげていると説明した。
「家事もやってくれているしねぇ…こちらとしては大助かりなんだよ」
「それでも…私は…」
南瓜丸は何か言おうとして口をつぐんだらしい。

ルート達は、何とか盗賊の親分を説得し、橋を渡れるようにしてもらおうという強引な作戦に出た。
「ルート、勝算はありますか?」
「さぁ…いざとなったら、運命の神様にでも祈るさ」
そうして彼らは、少々無謀な賭けに、砂漠へと向かった。

「盗賊のアジトの場所はわかりますの?」
「さぁ?」
「さぁ、ってルート!」
テルが声を荒げた。
「歩き回っていれば、その内、盗賊が出てくる。そいつらに道案内をさせようと思うんだ」
ルートは、しれっとしている。
「ルート…あなたって人は…」
テルとイリスは大きく溜息を吐いた。

小一時間後。
ルートの言ったように盗賊が何人か現れた。
「でてきたな…」
ルートが笑ったのをテルは見た。
ルート達は盗賊を倒し、道案内をさせることに成功した。
「ルート…ナンセンスです…盗賊が弱かったからいいようなものの…」
「結果オーライだよ」
戦いの前とは違った無邪気な笑いを、ルートは浮かべた。

盗賊たちのアジトの前には、見張りが何人かがいた。
道案内にした盗賊は、アジトの中に逃げ込んでいった。
アジトの中からぞろぞろと盗賊たちが出てくる。
「えーと…この数を相手にするのは…とてもナンセンスとしか…」
慌て、怯えるテルの横で、ルートは声を張り上げた。
「ディアン国境大橋のことで話がある!頭にお目通し願いたい!」
ふざけるなとばかり、盗賊たちが襲いかかってくる。
そこへ
「待ちな!」
気丈な女性の声がかかった。
盗賊の群れが左右に割れ、しなやかな肉食獣のような女性が歩んでくる。
長い髪は金。後ろで束ねてある。そして瞳は緑。
機動性を重視した服に、身を包んでいる。
「どうせ他は雑魚だ。あたしを倒してからお頭にはあわせてやるよ。タイマンで勝負だ。そっちは誰を出す?」
「テル、イリス、下がっていてくれ、僕が行こう」
荒れ地に吹く風の中、無言で勝負は始まった。

(速い!)
ルートはそう感じていた。
実際、彼女のスピードは半端ではなく、ルートは完全に後手にまわっていた。
彼女の短剣から、ルートに赤い筋が何本もつけられていく。
「やあっ!」
大きく振った剣は完全に空振りをした。
「遅いよ!」
再び短剣がルートを襲う。
防御で精いっぱいだ。
(何とか…隙を…)
そう思ったとき、
「次で終わりにするよ…」
彼女の呪文の詠唱。ルートの中で何かが閃いた。
「うぉぁああ!」
ルートが叫ぶ。呪文の詠唱が途中で止まる。構える。遅い。

「そこまで!」
野太い声がかかった。
今迄固唾を飲んで見守っていた盗賊たちから、お頭、お頭と声が上がる。
髭だらけの顔を見とめたとき、ルートの中で緊張の糸が切れたのか、
ルートはそのまま意識を放り出した。

目が覚めたのは、盗賊のアジトの中のベッドだった。
ナンセンスを連発する奴が、うまく交渉してくれた、と、近くにいた盗賊の一人が話してくれた。
なんだか盗賊も、いい人なのかもしれない、と、ルートは思った。
ノックの音。ココンと。
「ルート、起きてますかぁ?」
控えめに部屋に入ってきたテルの後ろから、
「ルート!あんなに無茶しちゃいけないでしょ!あたし、すっごく心配したんだから!だいたい、回復魔法が使えるあたしがいるからいいものの、本当に致命傷だったらどうするのよ!そんなことになったら、あたし…あたし…」
イリスは駆け寄り、ルートにしがみついて、わあわあ泣きながら責めた。
怒涛のような責め文句を、ルートは「はいはい」と曖昧に流した。
その二人の後ろに、先程戦った彼女が入り口にいた。
「傷はもう良いのか?」
「傷より…疲労だったみたいです」
「何だ、疲れていただけか」
彼女は笑った。
テルが状況の説明をはじめる。
「ええと、お頭によると、ディアンの大橋の奴は、自分勝手にあんなことをする奴だから、お頭の手紙…これなんですけど、これを見せれば、否が応でも帰ってくるだろうとのことです。それと彼女は…」
テルは盗賊の彼女を見やる。
「あたしはジュリア。ジュリア・タックス。本職は賞金稼ぎ、今は…ここの用心棒みたいなものだ。最近、このあたりも急激に水が減っているらしいから、それについても調べてこいって、お頭に言われたんだ」
「ということは…」
「ラシエルまで、よろしくな!」
「ええと、こちらこそです!」

ジュリアという旅の友を加えて、ディアン大橋へ再び向かうと、
盗賊はあっけなく道を開けてくれた。
世話になった小屋の主にその旨を伝えに行くと、
かぼちゃ頭の男は、既にいなくなっていた。

「ディアン国まであと少しですね…」
大橋を渡り、テルが伸びをした。
荒れ地から離れたせいか、緑がとても眩しい。
「ラシエルまであと少しだ」
4人はディアンへ向けて歩いていった。


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