近衛兵フェンダー


朝が来た。
テルが目覚めた時、ルートはすっかり身支度を整え、窓の向こうにみえる城を睨んでいた。
昨日の嫌な予感というものが、拭えていないらしい。
テルはナンセンスだと思った。予感というものは大抵信じていない。あるのは現実と事実だけだ。
それでも、ルートは城を睨んでいた。
まるで何かの仇のように…

朝食の席にメンバーがついた。
テルが調べたことを、まず、報告する。
「ええと…ここの城の城主は、身分の証明が可能であることと、それから、礼儀さえ守れば、いつでも謁見が可能だそうです」
ジュリアが口笛を鳴らした
「開けてるぅ♪」
「物分かりのいい王様みたいですわね」
イリスの言葉にルートがポツリと言った。
「物分かりのいい王様だったら、ラシエルを繋ぐ洞窟を封鎖したりするかなぁ…」
「それは王様の考えがあって…」
「そうだね…そうであってほしいね」
「ルート!昨日の嫌な予感というものをまだ引きずっているのですか!!全くナンセンスです!」
テルが珍しく声を荒げた。
ルートは少しびっくりしたようだが、
「それでも…予感は拭えないんだ…」
と、言って黙ってしまった。

黙々と朝食をとり、謁見をしに城へと向かった。
城を守る兵士達は全員がフルフェイスの兜をかぶり、各自が得意とするであろう武器を持っていた。
テルが身分証明をしている間に、イリスが
「武器の統率はされていないみたいですわね…」
と、言えば、ジュリアが
「それだけ、実戦中心なお国柄なんだろうな…」
と、返した。
テルは謁見の目的と身分の証明を行っているらしい。
受け付けの係であるものが、城の奥へと行き、しばらくして戻ってきて、謁見の許可をした。
「行きましょうか」
テルは明るく言った。

王の間までは外よりも明らかに屈強な兵士達が立っていた。
「近衛兵ってやつだな…王の直属の兵士…」
ジュリアはボソッと呟いた。
しばらく歩くと、広い、王の間にたどり着いた。
王の間は、奥が少し高くなっていて、そこには色白の王と、傍らにローブで顔の見えない宰相がいた。
「じゃ、説明は僕がしますね」
と、テルはルートに向いて言った。
ルートは黙って頷いた。
テルを前にして、後ろに3人が横に並び、膝をつく。
テルは王の前で堂々と話し出した。
村のこと、砂漠のこと、それらの異変の原因を調べるためにラシエルへ行きたいこと…テルの弁舌はよどみなく流れた。
王は薄笑いを浮かべて、その弁舌を聞いていた。
そして、
「わかった、遠路遥々ご苦労であった。君たちには、休める場所ともてなしを与えよう…」
青白い顔をした若い王は、指を鳴らした。
たちまち兵士達がルート達を取り囲んだ。
「どういうことだ!」
ルートは怒鳴った。
「君たちはラシエルに向かおうとしている…そのことが少し不都合なのでね…しばらく休んでいてもらおう」
王は続けた
「牢獄へ連れて行け!」
兵士達は王の命令に忠実にしたがった。

「休める場所にもてなしだぁ?くそっ!」
牢の扉を蹴り、ジュリアが更に続ける。
「嫌な予感的中だな…だからといって、こっから出られるわけじゃないけどな…」
イリスは習慣なのか、祈りをささげている。
「神様、日々の糧を約束する神様…」
イリスの日課の祈りごとらしい。
イリスは続ける。
「神様、現状を改善するすべを、どうぞ私たちにもたらしてください…」
神頼み、か。と、ルートは思った。
イリスは割りとそういうところがある。
まぁ、実害ないからいいか、などとルートは思った。
ルートは固いベッドに横たわり、ふと、テルを見た。
テルは背中を向けて何か作業をしている。
こういう時は、話し掛けない方がいい。
「しばらく寝る。時が来たら起こしてくれ」
「おい、寝るって…」
呆れともなんともつかないジュリアの声を無視して、ルートは眠ってしまった。

頬をつつかれ、ルートは目を覚ました。
「時が来ましたよ」
テルはにんまりと笑っている。
手には、鉛筆くらいのなんともつかないような機械が握られている。
「これはオープナーという僕の発明品です。これで脱出しましょう」
「まったく…ここまで普通発明品をもって歩くかねぇ…」
「パーツならばいつも持ち歩いています。ただ、がらくたと思われるから、取り上げられないでおくことが出来るのですよ。ふふん…技術の勝利ですね」
テルは誇らしげだった。
「さて、自慢話はそのくらいにしよう。脱出だ」
ルートの提案に全員が応じた。

鉛筆のような機械は、小さなモーター音を立てて、いともたやすくカギを開けてしまった。
通路を見てみると、巡回の兵士などはなく、シンとしており、
扉のすぐ横には、箱の中に取り上げられたアイテムや武器が乱雑に放ってあった。
「ここの兵士って馬鹿なんじゃないか?」
「ナンセンスなほど警備が手薄ですね…」
「しっ!気が付かれると面倒だ!静かに!」
ルートはそういってジュリアとテルをたしなめた。

鬱々とした牢獄を歩く…
「静か…ですわね…」
イリスがそう言ったその時、ものすごい勢いで扉を叩く音が聞こえた。
「出たがってるのは僕達だけじゃなかったってことですね…」
彼らは静かに音の方へ近づく。
何度も扉を叩く音がする。
近くで聞くと叩くというよりは、むしろ、熊が体当たりでもしているような音だ。
そして、
「ちくしょう!」
と、中で声がし、体当たりが止んだ。
ルートはその牢の中をのぞいてみた。
大きな身体の戦士が息を切らしている。装備から察するに、ディアンの戦士だ。
戦士の髪は金、短く、つんつんとしている。その目、顔には疲労の色が濃い。
そして、小さな椅子には
「王が…いる」
「何だって!?そんなナンセンスな!」
戦士がこちらの存在に気が付いたらしい。
「おい!こっから出してくれ、誰でも構わん!早く!」
「あなたと…その王は…一体?」
「俺は近衛兵隊長フェンダー。この人はリード王の双子の弟、バッキング王だ!」
一同は顔を見合わせる。
そして、テルのオープナーは静かに起動した。


次へ

前へ

インデックスへ戻る