二人の王
ルート達は、自分たちを牢獄に入れた王と、そっくりの顔を見ていた。
ここは鬱々とした牢獄の一室。
先程テルが扉を機械でこじ開け、ルート達一行と王の双子、そして、近衛兵隊長は同じ室内にいた。
「王族が牢に入れられるなんて…よっぽどのことと思うが…」
ルートが切り出す。
「それもこれもあの腰巾着魔導師のせいなんだ!くそっ!」
フェンダーが悪態をついた。
ルートは青白い顔をした王の隣にいた、顔の見えない宰相を思い出していた。
ジュリアもピンと来たようだ。
「あいつかぁ…よし、はっ倒してくる!」
「ジュリアさん!落ち着いて!」
扉を開けて出て行こうとしたジュリアをテルがたしなめる。
ジュリアは不満をぶつぶつ言いながら扉の方から戻ってきた。
「事情を聞きましょう。何かお役に立てることがあるかもしれません」
近衛兵フェンダーは言葉をたどりながら話し出した。
その宰相は、お世辞にも頭のいいとは言えない、戦士の国ディアン国にやってきて、
口先三寸で国王…リード王に取り入った。
これからの戦士には知性も必要だという理由らしい。
やがて、宰相は魔法王国ラシエルとの戦争を提案する。
「最強の戦士の集う国の領土を拡大して、何が悪いのでしょうか?」
とは、宰相の言葉らしい。
しかし、双子の弟のバッキング王はある日、宰相の部屋の前を通り、偶然、彼のたくらみを聞いてしまう…
「たくらみ?」
ルートが聞き返す。
バッキング王は静かに答えた。
「ラシエルとディアンで戦争を起こさせて、両国を消耗させ、やがて滅ぼす…と」
「くだらねぇ…」
ジュリアが吐き捨てるように言った。
バッキング王は続ける。
「自分を認めなかったこの国々を、正しい神の御名において滅ぼす…と…」
「正しい神…間違えた神…」
イリスが繰り返した。イリスは武器屋で出会ったミシェルという青年を思い出していた。
テルが話しを続けた。
「で、そのことを聞いてしまったあなたはリード王に言った…そして推測するに、何を言っている!とか言われて…」
「国家転覆罪という罪状でした…」
「なるほど…予想以上にリード王はその男を信頼していたのですね」
「はい…私の進言も聞き入れることなく…私をかばったフェンダーまで…」
「横暴だといっただけで牢獄入りだ。くそっ!」
フェンダーは牢獄の床を拳で叩いた。ミシッと音がした。
「これから…どうします?」
ルートは一同を見渡した。
「腰巾着をぶっ殺す!」
牢に入れられてから苛々しているジュリアが言った。
「あの宰相は相当な魔法の使い手です…戦いになれば…」
バッキング王が進言した。
ルートがバッキング王の言葉をさえぎり、続ける。
「戦いになれば、バッキング王、あなたは足手まといになるだけかと思われます」
「ルート!少しナンセンスじゃないのか?」
「いや、そのとおりだろう。私は足手まといになる」
わかってんじゃねーか、とジュリアは言って続ける。
「で、どうするんだ?このまま出ていっても、脱獄でつかまるだけだろ?かといって王様置いていけば牢番の兵士に怪しまれるだけだろ?」
ジュリアの問いにルートが提案をする。
「二手に分かれる。王を無事に脱出させる組、宰相を叩く組…」
「ルート…」
「脱獄をしたら迅速に行動を行わないと、ディアン国の兵士を相手にしてそんなに持つわけがない。王を守ること、宰相を倒すことのみを考えていないと、多分…」
ルートが間を置き続ける。
「互いの命も危ないだろう…」
魔導師を相手にするということで、魔法を使うものより肉弾戦が得意なものの方がいいだろうということで人選が行われた。
「じゃ、イリスとテルは王をたのむ」
テルは神妙に頷いた。
「さ、王様、あたしと一緒に!」
テル達は牢を駆け出していった。
ルート・ジュリア・フェンダーがあとに残った。
「あたしゃ心配だよ…あんな貧弱なの二人で…」
「あの二人もやる時はやりますよ…俺たちも行きましょう!」
三人は派手に牢の扉を開け…というか蹴破り、王の間へと急いだ。
迫りくる、どこか朦朧としているディアン兵をかわし、三人は王の間へとたどり着いた。
「いない?」
王と宰相の姿はない。
フェンダーは愛用の手甲に鋭い爪がついた武器をがちりと装備した。
空を切って、重みを確かめる。
そのとき、フェンダーが何かに気がついた
「王の自室、こっちだ!」
言うよりも早くフェンダーは駆け出していた。
ルートは走りながら圧迫感を感じていた。
ディアン兵が追いかけてくる。その圧迫感ではない。もっと重苦しい、何かがあった。
王の自室に近づくにつれ、圧迫感は増していった。
「嫌な感じがする…」
ルートはそれだけ呟いた。
ジュリアは自室の扉を守っている兵士を都合二撃で昏倒させ、
フェンダーが扉を蹴破った。
そこには…何かどす黒い気体に縛られているリード王と、
空中で何かを操るように手を動かしている宰相がいた。
「…儀式の邪魔だ…脱獄犯め…」
「るせぇ!リード王に何をしてやがる!」
「死んでもらう…双子の王にも追手はかけた。じきに二人とも死ぬ…私は正しい神の力により、この国を統治し、ラシエルと…」
ヴンッと空気が鳴った。
宰相のローブが少し切れている。
剣を振った、ルートが剣の構えをなおした。
「御託はいらない…」
「くっくっく…私に勝てるとでも?」
「詐欺師に負けるような腕は持っちゃいないさ…」
ルートの一言で、宰相の持っている空気が変わった。
「死ねぇ!」
速い詠唱の後、火球が幾つも飛んできた。