港町の出逢い
ラシエル城へと続く道は二つ。
一つは険しいディアンサイドの道。
もう一つは、なだらかな坂のシリンサイドの間道だ。
ルート達は、シリンサイドの間道を通り、一路、港町シリンを目指した。
「港町シリンから海底洞窟を通る。その先にラクリマの町がある」
クライルから、そう、説明を受けた。
なだらかな間道を抜けると、潮風が鼻をくすぐり、やがて、海が見えた。
「でっけー…池だな…」
「フェンダーさん、これは、海っていうんですよ」
「はー…これが海ってやつか…でっけーなぁ…」
熊のような戦士は素直に感嘆しているようだった。
「これだから無知は困る」
「いーんだよ!感動は素直でなきゃ出来ねぇんだからさ」
クライルは軽く溜息をつくと、海に感動している熊もどきを見つめていた。
熊もどきは気がついていないようだった。
シリンまではさしたる敵も出なく、
日暮れ前には到着する事が出来た。
ふと、ルートがシリンの町とは別の方を振り向いた。
「どした?」
「うん…シリンの町から…ずっと離れたところ…多分あっちに、僕の剣のお師匠様が住んでいるんです…」
「顔見せに行くか?」
「いえ、今は優先すべき事があります。それに、かつての弟子なんかに興味を示すような人じゃありませんから…」
ルートは再び町の方を向くと、今度は振り向かずに歩き出した。
町の宿屋に宿を取り、彼らは体を休めた。
ルートが剣の手入れをし、フェンダーが愛用の鉄の爪を磨いていると、クライルが入ってきた。
「海底洞窟は、現在封鎖中だそうだ」
クライルは手短に告げた。
「じゃあ、ここで行き止まりですか?」
「いや、数日中には復旧の見込みだそうだ」
「はー…」
ルートは安堵の溜息を漏らした。
「なんでも、ラクリマの聖騎士という人物がここで足止めを食らっているらしく、その聖騎士のために復旧作業が急ピッチで行われているらしい」
聖騎士…そういえば、イリスと話していたという人物がそうではなかっただろうか?
「聖騎士…?ああ、ディアンにしばらくいたなぁ…そんなのが」
「知り合いか?」
「いや、ただ、城下で見かけた事がある。魔城ルナーを目指すとか、間違えた神がどうとか言ってたような…」
「熊の記憶はあてにならんな」
「本当だってば!」
「フェンダーさんの記憶は、多分、あたっていると思います」
ルートの発言に、「ほぅらみろ!」とばかり、フェンダーが勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ディアンの武器屋で見かけました。イリスと話していて…確か名前は…ミシェル…と、いいました」
「ふむ…間違いはないようだな」
一応納得したクライルのそばで、ルートが考え込む。
そして、提案する。
「あの…ラクリマの聖騎士で、ルナーを目指しているのなら、パーティーに加えられないでしょうか…」
「交渉する価値はありそうだ…」
「でもよぉ…あれ、すっげえ性格悪そうだぜぇ…」
「誰の性格が悪いと?」
声はドアからした。
三人が一斉に振り向いた。
気配はなかった。ないはずだった。
しかし、そこには、話題に上っていた彼が…羽飾りつきの紫の帽子、同じ色のマント
マントの留め具は、ラクリマの聖騎士の証だ。
「改めて自己紹介する必要もないようだな」
高圧的な視線、そこにいたのは…
「ルナーを目指している一団がいるらしいと、赴いてみれば…」
そして、ふん、と、見下して見せたその人は、聖騎士ミシェルその人だった。
交渉はものの数分で終わった。
「目的地を同じくする戦力を、捨てる必然性は見られない」
と、ミシェルは言った。
フェンダーは理解できていないようだった。
「しかし、縁というものはわからないな…あの時イリス嬢と一緒にいた剣士と、共にルナーを目指す事になろうとはな…時に、イリス嬢は?」
「ええと…」
ルートは今までの経緯を説明した。
「なるほど…イリス嬢はそうやって別行動をとり、ルナーには、さらわれた戦友を助けるため…か」
「かいつまむと、そういうことになります」
「やはり、『魔』のすべき事は許せない事だな…」
ミシェルは何か納得をしたらしい。
「ともかく、今日はもう休みませんか?夜もふけてきたし…」
「そうだな…私も自室に戻らせてもらおう」
ミシェルは戻っていった。
「やっぱり、なんか気にくわねぇよ…」
フェンダーが愚痴った。
「しかし、かなりの使い手ではあろう」
クライルが言った。確かに、部屋に入ってきた時の気配の消しかたはかなりのものであった。
「敵には回したくありませんね…」
ルートはポツリといった。
港町らしい喧騒に慣れてきた三日目の朝。
「海底洞窟復旧だそうだ」
という、情報が飛び込んできた。
「足止め終了ですね」
「よっしゃ、いっちょいくかぁ」
町外れでミシェルと合流し、一同は海底洞窟に足を踏み入れた。
何日か待った割には、洞窟は一本道の殺風景なものだった。
フェンダーが拍子抜けしていると、
「ここは一般市民も使うんだ。複雑な洞窟にしてどうする?」
という、ミシェルの言葉が返ってきた。
あまり長くはない洞窟を抜けると、すこし、空気の流れの変わった大陸に出た。
「ここから少し南に行けば、ラクリマの町に出る。確か、そこも目的地の一つだったな」
「ええ」
ルートは肯定した。
知りたかった。世界に起きている事、自分に出来る事。様々の事。
そのヒントが今から行く町にあるかもしれない。
「行きましょう」
一言だけルートは言った。