マリス城にて


マリス城は潮風の心地よい、海の近くにある。
シリンまた然り、潮風は人という物を開放的にさせるのか、
マリスもまた、開放的なおおらかな感じのする場所であった。
色合いの基調は城壁が白、尖塔などの屋根にあたる部分は赤茶色である。
城下町は賑わっており、とても、東に死人の巣窟などが封じられているとは思えなかった。
不意に、城下町の通りの奥から黒っぽい装束に身を包んだ者が走り出してきた。
「だれか!そいつをつかまえてくれぇ!」
黒い装束の者の走り出してきた通りから怒声があがった。
黒装束はルート達の方にかけてきた。
不意に、チャキっという音。
ルートが隣りに立っているサムライが鳴らせた鍔鳴りの音だと理解した頃、
黒装束が目の前で倒れた。
「あんた、遅いぜ」
ジャクロウは不敵に笑い、刀を鞘に納めた。
「エクス日輪流師範代は伊達じゃないぜ」
そして、ジャクロウは太陽のような明るい笑顔を浮かべた。

そんな些細なトラブルもあったが、彼らは装備一式を揃え、
やがて日も暮れかかり、宿をとる事にした。
1階は酒場で随分賑わっており、どうやら2階が宿であるらしい。
「女将、3人」
ジャクロウが部屋を取っている時、
酒場の方から歓声が上がった。
テーブルの上で極彩色が舞った。
頬が染まっているのはアルコールの所為かもしれない。
ルートはその姿に見覚えがあった。
度々会った事のある踊り子・ラミリアであろう。

ひとしきり踊ったラミリアに
聞き覚えのある声がかかった。
「どうも、お久しぶりです」
童顔の彼は、そう、ルートといった。
ラミリアはスキンシップを取ろうと抱き着こうとしたが、僅差でかわされた。
それなりに修行は積んできたらしい。
ラミリアとルートはお互いの径行を話し出した。
ルートは仲間を探すため、ひいては、世界をどうにかするために旅をしているという。
あてがあるわけではないらしいが、それでも大きな話である。
ルートの真剣な瞳は嘘をついているとは思えなかった。
「で、ラミリアさんはどうしてここに?」
「ま、いろいろあってね。ちょっとルナーに御用かな、と。そういえば、君もルナーに御用だったよね」
「え、ええ、まぁ…」
ルートは口篭もった。
「ついてっちゃおうかな〜」
ルートがめちゃめちゃに慌てている。
なにかついてきてほしくない理由でもあるのだろうか?
ラミリアが怪訝に思ったその時、
「おい、ルート」
2階からルートの連れらしい男が二人降りてきた。
「ジャクロウさん、ミシェルさん!」
なるほど、彼らはジャクロウとミシェルというらしい。ラミリアの審美眼からいえば、中の上程度だろうか。
「なるほどぉ…美丈夫に囲まれた旅というのもオツよねぇ…」
ルートが引きつり笑いらしいものを浮かべた。
ラミリアは満面の笑みをたたえた。
「よろしくね♪」
ルートは思いっきり溜息をついた。

翌日、パーティーは城下の図書館へと足を運んだ。
聞くところによると、昨日この図書館では盗難事件があったらしく、その犯人があの、黒装束の者だったらしい。
「何が盗まれそうになったんですか?」
ルートは好奇心から訊いてみた。
受付の女性は快く教えてくれた。
「ここの東にルシファーの祭壇って言って、ふかーい洞窟を封じている場所があるのよ。そこに関する書物だったかしら。なんでも、ふかーい洞窟には死人がいるんでしょ?だから、死んだ恋人に会いたかったとかどうとか…」
「すみません!その本、今、ありますか?」
「え、ええ…3ブロックの24列−15番に」
「ありがとうございます!」
ルートは走っていった、が、司書さんに図書館では静かにと注意された。

「ラクリマでは見ないな…こんな書物は」
ミシェルが蔵書を見渡しながら呟く。
そして、かの書物は、
意外にもラミリアが書物を興味深く読み解いている。
「ああ、これね。ルシファーの祭壇…妖精の涙を図のように…祭壇の上の、窪んだところに置くのね。そして、この祝詞を唱える…ふむふむ…この宝石と祝詞が一つになって封印の鍵みたいね」
「マリスに来たのも、無駄足じゃなかったみたいですね」
「そうね♪あたし達もこうやって会えたわけだし♪」
ラミリアはにっこりルートに微笑みかけると、また、書物の読み解きにかかった。

不意に、外が騒々しくなった。
モンスターか何かかと思ったが、どうも違うらしい。
ルートが図書館の窓から騒々しい中庭を見ると、
中庭の大きな噴水池のまわりに子供達と大人が三人がいた。
ルートはちょっと面白そうなので窓から見ている事にした。
「ふはははは!マリスの青空教室は、この『ラーメンを強引に広める友の会』が占拠した!この子供達は我々の戦闘員として教育するのだぁ!」
大人達が…デブとヤセと女性が高笑いをした。
そのとき、
 「子供の夢を踏みにじる…そんな輩は許さない…」
「誰だ!」
悪党(?)がうろたえる。
 「希望を未来を破壊する…悪を私は許さない…」
「その声は…」
 「危機の時に私を呼べば、私はそこに現れる…私の名は…」
子供達が、せーのと言い、
「かぼちゃまるー!」
と、元気な声で呼んだ。
すると、図書館の屋根から中庭へ化鳥のように降りてくる影。
大きなかぼちゃ頭がその顔を上げた。
「…鉄観音南瓜丸。推参…」

ルートが見ているその目の前で、南瓜丸は悪党を蹴散らし追い払い、そして去っていった。
「なぁ、今の何かのショーだったのか?」
ジャクロウが訊ねたが、ルートは何とも言えなかった。
あれが彼の地なのかもしれない。
「さ、これで完璧ね」
マイペースにラミリアが書物から顔を上げた。
「いきましょ。ルシファーの祭壇へ」
一同は頷いた。


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