光神ケテル


ルートたちは雨の中、漆黒の塔に向かって歩いていた。
ルートはふと、ルナー城のほうを振り向いた。
まだ、大きな戦闘にはなっていないようだが…

「振り返るな」
ミシェルがルートの横を通り過ぎていく。
「漆黒の塔に目指す『魔』がいるかもしれない。それを討てば…ラクリマの民も…」
ミシェルは半ば独り言のように話していた。
あるいは、自分に言い聞かせていたのかもしれない。
ラクリマの民には、いろいろ思うところがあるのだろう。
そんなミシェルを見て、
また、ルートは漆黒の塔に向き直った。
「行きましょう。神のこと、器のことが、わかるかもしれません」

ルナーの闇に溶けて、漆黒の塔がそびえたっていた。
雨が強い。
風も強い。
ルートは漆黒の塔の上を見た。
風雨にもかき消されず、上には…
「光?」
何かを導くように光が束になって放たれている。
「何かを導いているのかな?ミッ君どう思う?」
ラミリアはミシェルに話を振った。

ドクン

ミシェルの身体で何かが反応した。
あの光で何か反応している。
「おいっ!ミシェル!」
ジャクロウが声をかけ、ミシェルは少し我を取り戻した。
何か、動揺のようなものが、ミシェルにあったが、
ミシェルは少し頭を振り、動揺のような、その感覚を、押し殺してしまった。
「とにかく、この塔に何かがあるはずです。行きましょう」
ルートはそう言うと、扉を開いた。

延々と螺旋の上り階段。
真っ暗ではない。
上のほうに光が見える。
パーティーはもくもくと階段を上った。
光を目指して。
そして、階段の終わりに扉。
そこから光が漏れている。
扉を開くと…まばゆいばかりの光が一瞬にして広がった。
目がくらむ。

「よくぞ来た、おろかなる人間ども」

光がテノールで話す。
少しずつ目が慣れてきた。
光の中心には、槍を構えた男がいた。
輝く鎧をまとっている、秀麗な容姿だ。
「私は光神ケテル。おろかな人間を滅ぼし、選ばれた民による世界を作るもの…」
「光神ケテル…」
ミシェルがふらふらと歩み出る。
「ケテル…様。『魔』を討ち滅ぼし、清い世界をつく…」
ケテルは笑った。
「『魔』…か。そんなことを『ご神託』にしたこともあったな」
ケテルは高笑いした。
「私をあがめるものだけの世界があればいい!『魔』とは好都合だった…私はこの力を永遠にし、器などには渡さぬ!」
ミシェルは、一歩、退いた。
「『魔』は…」
「ただの異種族に過ぎなかった…わかっているのだろう?」
ケテルは一歩、ミシェルに近づいた。
ミシェルは信じられないように、一歩、また、退いた。
「お前も異種族を殺したな…15年前の魔狩りではなく…赤い目の…」
ミシェルは首を横に何度も振った。認めたくないように。泣き出しそうに。
ケテルは光を収縮させた。
槍が輝く。
「ラクリマの民は、操りがいがあった…これからも私をあがめてもらうため、働いてもらう…そして…」
ケテルは輝く槍を構えた。
「器のことをかぎまわっている輩は、皆殺す。まぁ、せいぜい、いい声で悲鳴を上げるといいだろう」
槍がうなる。
「神の手で死ねることに感謝をするのだな!」

「神は…信じてきた神は…『魔』は…間違えた神は…」
ミシェルは混乱している。

ドクン

ミシェルの中で大きく何かが反応する。
そして、
「うわあぁぁぁあ!」
取り乱したミシェルは、ケテルに向かい、槍を構えて突撃した。
ケテルは槍の刃でないほうで、ミシェルを突き飛ばす。
ミシェルは派手に突き飛ばされた。
床を転がって、ふらふらと立ち上がる。
ミシェルの視線の先には、ケテルがいる。
ぼやけて見える。涙かもしれない。

ケテルは槍をまわし、光の衝撃波でパーティーを吹き飛ばす。
その力は、今まで戦ってきたモンスターの比ではない。
「やらなきゃ…やられますね」
ルートが体勢を整えた。
ラミリアが詠唱を始めた。
ジャクロウが刀を構えた。

ドクン

ミシェルの中で、何かが反応していた。
取り乱したミシェルは、もう、何もわからなかった。
ただ、信じていた神に裏切られた。
それだけがミシェルの事実だった。


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