荒地を越えて


ミシェルが転送魔法らしいもので消えたあと、
漆黒の塔の近くに、ディーンがやってきた。
ディーンは荒地に影を認め、大体何があったのかを悟った。
「ラクリマの民が…消えたのだな」
ルートは無言でうなずき、肯定した。
「ひとまずはルナー城へ戻ることを提案するが」
「そうしましょう」
パーティーはルナー城へと戻っていった。
いつの間にか、雨はやんでいた。

ルナー城はラクリマの民がいなくなったこともあり、
ルナー城の女子供も総員して、
兵の手当てや城壁の修理などをしていた。
ディーンを先頭に歩き出し、
ルートたちは以前通された応接間へ向かった。
ボールが転がってくる。
頬に眼のある少女がボールを追いかけてくる。
ルートはボールを拾い、
少女に渡す。
「あのおにいちゃんは?」
少女はミシェルのことを言っているに違いない。
「あのおにいちゃんは…」
ルートは言いよどむ。どうしたらいいものだろう。
「あのおにいちゃんは、きっとまたここに来るわよ。約束したんでしょ?」
ラミリアが助け舟を出す。
少女は満面の笑みを浮かべ、うなずき、
遊びの輪に戻っていった。

ルートたちは応接間に通され、身体を簡単に拭き、おのおの椅子に腰掛けた。
「ディーンさんは…」
ルートが話し出す。
「ディーンさんは、漆黒の塔に光神が待っていることを、わかっていたのですか?」
ディーンはそれに答える。
「…正確には、神やその器に関するものがある…それが、キリーク殿の占いでわかっただけだ」
「キリーク?」
「ルナー城の占い師であり学者とでも言えばいいか…とにかく、君たちが来たならば、そこへ向かうように…」
「それで…ミシェルさんは…」
「ラクリマの民を消した…」
「それだけじゃありません」
「思うに、光神も殺したか?」
「!」
ディーンを除いた他のメンバーが息を呑んだ。
「これも、キリーク殿の占いだ」
「そう…ですか」
「光神は、神の力に固執する…そしてラクリマを動かしたと見た」
「多分、そのとおりです」
ルートは光神に関する印象を答えた。
多分、力に固執した。
他の神もそのようなものなのだろうか。
だったら世界はもっと恐ろしいことになるかもしれない。
ルートは、思った。
「さて…どうしたものか」
ディーンはあごに手を添えて考える。
魔族の緑の瞳が、卓上をじっと見つめている。

間があり、ジャクロウが話し出す。
右目の眼帯をいじりながら、
「俺はエクスに戻りたい。神のことで…気になることがある」
「気になること?」
ディーンが聞き返す。
「エクスに伝わる、日神コクマのことだ…俺を探していた戦士もいると聞くし…気になるんだ」
「日神が、光神のように…ですか?」
ルートが聞きかえす。
「いや…多分…日神じゃないと思うが…とにかく、エクスに戻りたい」
ディーンはあごに手を添えたまま、話す。
「エクスへの大橋は落とした…空路の翼竜は傷ついている…ならば、海路を使うしかないか…」
「そうだな…でも、俺たち船持ってないしな」
「ジュリアさんのことも気がかりだ」
「それでも、港町シリンからエクスに定期便なんて出てないだろ」
「定期便ではないが、アージュとなら交流があるだろう」
「でも、ここからアージュへは遠いだろ。俺もそっち経由で来たんだけどな」
「そうだな…大橋も落としたことだしな…」
ディーンとジャクロウがやり取りをする。
アージュとは、ルートはうっすらとしか覚えていないが、
ディアンの近くの町らしい。
以前テルが地図を広げながら言っていたのを聞いた。
そこで、それまで黙っていた、ラミリアが話し出した。
「とりあえずシリンに行く…それなら、ちょっとよってほしいところがあるの」
「よってほしいところ?」
ルートが聞き返すと、ラミリアは神妙にうなずいた。
彼らはそれ以上追及せずに、とりあえずシリンを目的地にした。
「わかった、それでは、明日ルナーを発ち、シリンを目指す。それまでに私も引継ぎをしておく」
ディーンがそういって席を立つ。
「引継ぎ?」
「エクスに身を寄せたジュリアさんが気にかかる。私もついていく」
「わかりました」

次の日、
ルート、ジャクロウ、ディーン、ラミリアはルナーを発った。
ヒースの荒地を越え、一路シリンへと目指していった。


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