ラミリアの話


一行は、ラミリアに続いて、
シリンの町を歩いた。
港町の明るい雰囲気の町を歩く。
ラミリアは、シリンの町外れの、とある小さな家にやってきた。
ラミリアは鍵を開いて中に入る。
「みんな、おいで。ここは私の家だから」
皆、ラミリアに続いた。

ルートは、一番最後に家に入った。
あたりを見回すが、こぎれいで小さな家かなと思う以外、
特に何か珍しいところではないように感じられた。
「今、お茶いれるね。そこらへんにかけといて」
ラミリアはパタパタと台所へ行った。
ディーンは椅子に腰掛け、
ジャクロウは止まった時計などを、なんとなしに見ていた。
ルートは、飾られた絵に気がついた。
よく似た赤い眼のエルフの…兄と妹?

カチャリ

ティーセットが置かれた音がする。
「ルー君は気がついた?」
ラミリアが人数分のお茶を入れる。
「それは、私と妹なんだ」
「妹…さん」
「もう、この世にはいないよ」
ラミリアがさびしそうに笑った。

「それで…ここに呼んだのはどうしてなんだ?」
ジャクロウが茶を飲みながら問う。
「ん…ちょっと、思い出話に付き合ってもらおうと思って」
「思い出話?」
「ミッ君とのことで…思い出したから」
ラミリアはため息をつく。
そして、話し出す。
「あたしの妹はね、ラクリマのとある偉い方と結婚することになってたんだ」
「ラクリマ?」
「ラクリマの法王のご子息でね…身分的には偉いけど、旅が大好きで…」
「法王の子息…まさか」
「旅にばかり行っていることを…弟からいつもたしなめられていたって…そんな人だった」
ルートの中で、何かが一本につながりそうになる。
「それでね、結婚前日…何者かに妹は殺された…高貴な家柄にエルフはふさわしくない…と」
「それは…」
「…槍で何度も刺した痕跡があったそうよ」
何かがつながった。
「それが、ミシェル…か」
ジャクロウがつぶやいた。
ルートも思い出していた。
法王の子息、混乱したミシェルが、兄を取られまいとしていたことを…
赤い目のエルフを殺した…そんなことを。
「大体わかったかな…」
一同はうなずいた。
「あたしはね、妹が殺されてから、この名前を名乗って、オカマやってた」
ラミリアがティーカップを覗き込む。
その中には、美しいエルフの顔が映る。
「無念のうちに死んでしまった、妹の気持ちもわかるかなって…」
ラミリアの視界がゆがむ。
「復讐もできるかなって…」
ゆがんだ視界は、涙になって零れ落ちた。
「死んだあの子を焼いたのは、私の炎…死体が焼けるにおいは嫌い…」
「ラミリアさん…」
ルートが呼びかける。
気がつき、ラミリアは涙をぬぐった。
「復讐…やめることにしたよ。あの子が喜ぶとも思えないし…」
ラミリアは無理やり、にぱっと笑った。
「あたしも疲れちゃったし!やっぱり、年かなぁ?なんちゃって!」
おどけたラミリアに、ルートは心が少し痛んだ。

ドクン

ラミリアの身体で何かが反応した。
来る…何かが来る。
ラミリアはとっさに窓のほうに向き直った。
「へぇ…ケテルを倒したのは伊達じゃないんだね」
そこ…窓には、少年がいた。
ただし、ラミリアは尋常ではない何かを感じていた。
「僕は炎神ゲブラ。光神を倒した君たちと戦いたいんだ」
「必要のない戦いをすることもないでしょう」
「じゃあ、これで、どう?」
ゲブラが、大振りの宝石を取り出す。
紅の…ルビーだ。
見た途端、ラミリアの表情がこわばった。
「それはあの子の!一緒に埋めてあげたのに!」
「掘り返したんだよ。これはきれいだから、もらおうと思って」
ゲブラが笑っている。
「返しなさい…」
「僕に勝てたら返してあげるよ」
ラミリアが呪文の詠唱を始める。
「ちょっと待ってよ。ここでは戦わないよ」
ラミリアの呪文の詠唱がとまる。
「決着はマリス城でつけようよ。でも、早く来ないと、マリス城を火の海にするから…そのつもりでね」
ゲブラは窓から飛び降りると、そのまま空間転移していってしまった。

ラミリアは無言で席を立った。
「一人で行く気か?」
ディーンが席も立たずに問いかける。
「あたしの…戦いだもの…」
「ルートがテレポストーンを持っている。早く行くならそれが確実と思うが?」
「巻き込むわけには…」
「戦力は多いほうがいいかと思う。私たちを置いていく理由もないだろう」
ディーンが表情を変えないまま、告げる。
「幸いにして、私たちは仲間だ」
「そうですよ、ラミリアさん」
「俺も暴れさせてもらうぜ」
仲間の言葉に、ラミリアはうなずき…
マリス城を皆で目指すことにした。


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