炎神ゲブラ


ルートたちはラミリアの家から外に出た。
「このテレポストーンを使えばいいんですね」
ルートがテレポストーンを取り出す。
「多分、マリス城とラクリマの町とシリンの町が記録されてるはずよ」
「記録って…どういうものなんでしょう?」
「んー…」
ラミリアが説明しようと考える。
ディーンが話し出す。
「テレポストーンの使い方は、基本は、額に石をあてて、行き先を描く…それだけだ」
「そう、でも、何度も使えるテレポストーンなんて、はじめて聞いたわね」
「そうだな…まぁ、行き先を思い描き、テレポストーンの波長に合わせれば、テレポートできる。そういうものだ」
「…わかりました。やってみます」
ルートがテレポストーンを額にあてる。
皆がルートにつかまる。
ルートは南風の吹くマリス城を思い浮かべた。
テレポストーンから何かが流れ込んでくる。
ルートのイメージと石の波長のイメージが合わさると…
ルートたちは、シリンの町から消えた。

そして、マリス城の近く。
ルートたち一行は現れた。
「なるほど、城の中はイメージしなかったのだな」
ディーンが遠景に城を見ながらつぶやく。
「ええ…いきなり現れたらびっくりされるかなぁ…と」
「まぁ、見る限りは炎神ゲブラは火の海にはしていないようだが…間に合ったか?」
「歩いてくるだろうと思ってるのかもな」
話しているメンバーをよそに、ラミリアは歩き出した。
ルート、ジャクロウ、ディーンが続いた。

マリス城は変わりなかった。
ルートは拍子抜けしたが、
ラミリアは何かを探していた。
明るいラミリアらしからぬ、鋭い目をして、
何かの感覚を追っているようだった。

ドクン

(また…この感じ…)
ラミリアは何かの反応を感じていた。
(ゲブラが来たときの感じ…きっと、この感覚が近ければ、炎神ゲブラがいる…)
ラミリアには、どこか根拠が薄いが、変な確信があった。

ラミリアが何かに気がつき、走り出した。
ルートたちがあとを追う。
マリス城の噴水池のそばに、管理用の地下入り口がある。
ラミリアはそれを目指していた。
「何かわかったんですか?」
ルートが走りながら問いかける。
「噴水池の地下!あいつが潜んでる!」
ラミリアはそう言うと、管理用扉を炎魔法で壊し、地下へ向かった。

湿気の多い階段を駆け下りていった。
そして、噴水の管のたくさん通っている管理室…
…といっても、噴水を管理するだけあり、そこそこの広さの部屋…
そこに、炎神ゲブラの姿があった。
「割と早かったじゃないか」
ゲブラは笑う。
「ルビーを返しなさい」
「言っただろ、僕に勝てたらって…それに」
「それに?」
「僕は家族とか大事にする人間って嫌いなんだ。結局他人なのにさ…」
「それは…妹を大切に思う…私へのあてつけ?」
「ご名答」
ゲブラは笑った。
そして、ゲブラは変身する。
少年の姿から、炎の塊が人型をとった姿へと。
「みんなでかかっておいでよ。光神ケテルを倒した力を、僕にも見せるんだ!」
ゲブラは炎魔法を放つ。
ラミリアが炎魔法を放つ。
二つの異なる炎は、相殺されてわずかな熱だけ残して消えた。
「へぇ…やるじゃないか」
ゲブラがまた炎魔法を放つ。
ラミリアが相殺する。
管理室の広間に、熱による水蒸気がたちこめ始めた。
ルートがゲブラを斬りつけようとする。
ルートの剣は、炎の塊を抜けていった。
(実体がない?)
ルートはとっさにそう判断したが、
「どこかに核となる場所があるはずだ!そこを狙え!」
ディーンから言葉が飛ぶ。
ルートは意識を集中した。

ドクン

ルートは管理室の広間に、何かの流れができたことを感じた。
漆黒の塔で、うっすら感じた感覚…
(あの時は…ミシェルさんに衝撃波が当たらなかった…)
ルートは自分の勘に賭けることにした。
「ラミリアさん!炎攻撃を受けてください!」
ジャクロウがぎょっとした片目でルートを見た。
ディーンも少しばかり驚いたようだ。
ラミリアは、何かわかり、何かを覚悟したようだった。
「へぇ…仲間にも見捨てられた?」
ゲブラは炎の魔法を繰り出そうとする。
ラミリアは…
炎の魔法を繰り出そうとしているゲブラを…抱きしめた。

炎は暴走し、
噴水池管理室は、火の海になりかけ…
管があちこち破裂し、ざぁ…と、噴水池の水が降ってきた。
炎は少しして、鎮火した。

ドクン

ゲブラから何かが伝わってくるのを感じる。
ラミリアは、それをすべて、静かに受け止めた。


次へ

前へ

インデックスへ戻る