少年の心


ラミリアは、ゲブラを抱きしめたまま、
ゲブラの髪をなでた。
小さな少年、水が降ってきて、びしょびしょの髪。
ずぶぬれの炎の神様。
それはとても小さなものだと、ラミリアは感じた。

「ころ…せよ」
ラミリアに抱きしめられたまま、ゲブラがつぶやく。
「殺せよ!もう!僕には神の力がないんだ!」
ラミリアはゲブラを悲しく思い、
そして、また、強く抱きしめた。
「殺さない。神様であってもなくても、悲しいあなたを殺せない」
「僕は…」
ラミリアはわかった。
ゲブラから流れてきた、何か、で、ゲブラの今までが、わかった。
「神様になったことで…親よりも兄弟よりも…生きてたんだね…」
「なんでそれを…」
「みんな成長していって、老いていって、あなたを残して死んでいった…」
「まさか…君が…次の…」
ゲブラが何か言いかける。
「神様の力がなくても、血のつながりがなくても、家族にはなれる…そう、あたしは思う」
ゲブラがじっとラミリアを見る。
ラミリアはゲブラの目をじっと見る。
「ルビーを返して。そして、あたしと、新しい家族になろう」
ゲブラの目に、大粒の涙があふれ…
炎神だった少年は、ラミリアの胸で号泣した。

ラミリアは、しっかり、炎神を受け継いだ。

やがて、マリス城の噴水池管理室に、
管理の係りが現れ、
ルートたちは管理室の広間から追い出された。
ゲブラはまだしゃくりあげていたが、
地下室から出ると、
ラミリアの手に、何かを握らせた。
ラミリアが手を開く。
大粒のルビーだ。
「返すよ」
「ありがとう」
ラミリアはルビーを見つめると、
「それじゃ、ルー君、テレポストーン出してくれない?」
と、ルートに言った。
「どこかへ?」
「ラクリマ。そこに妹のお墓があるから…埋めてこようと思って」
「いろいろ、ごめんなさい…」
ゲブラが謝った。
ラミリアはゲブラの髪をなでた。
ゲブラはおとなしく髪をなでられていた。
心地よかったのかもしれないし、
反抗することが、照れくさかったのかもしれない。

テレポストーンで一行はラクリマに飛ぶ。
ラクリマは、人っ子一人いない町になってしまっている。
そして、皆でラミリアの妹の墓とやらを探す。
ふと、ジャクロウが気がついた。
「あれ、ルナーに行かなかったやつもいるんだな」
ルートがジャクロウの言葉に気がつき、かけてくる。
「どうしました?」
「いや、あそこに…」
そこには、高貴な身分の衣装を身にまとった、男が一人、
変わり果てたラクリマに呆然としていた。
「チェスコ…チェスコ!」
ラミリアが気がついた。
呼ばれたことに、チェスコが気がついた。
「私をご存知かな、エルフのお嬢さん」
「ええ…法皇様のご子息…長男の、チェスコ様…」
「エルフと結婚しようとして…それが壊され…旅に出ている間に町はもぬけの殻になり」
チェスコは苦笑いした。
「失うものが多すぎる気がするよ…まったく」
チェスコは重ねて、苦笑いした。
やりきれないというような感じだ。
これだけ失えば、そういう表情しか出来ないといった感じだ。
「チェスコ様…これ…」
ラミリアはルビーを取り出した。
「これは…この細工は…あのエルフの…」
「形見、です。チェスコ様に持ってもらうほうが、きっとルビーも幸せです」
「そうか…ありがとう」
チェスコはルビーをぎゅっと握り締めた。
「私は町を再建するよ。そうだな…君たちには頼みといっては何だが…」
「なんでしょう?」
ラミリアが問い返す。
「私が旅の間使っていた船を使ってくれないか?船は走らせていたほうがいい。私はラクリマに根を下ろすつもりだよ」
ラミリアはうなずいた。
「わかりました。船をありがたく使わせてもらいます」
「船はシリンに停泊されている。パスを持って行きたまえ」
ルートたちはチェスコの船のパスをもらい、
ラミリアは一礼し、チェスコの元を離れた。
ふと、ラミリアは一度振り返った。
チェスコが、愛おしそうにルビーを見つめていた。
ラミリアはそれをよしとした。

再びテレポストーンでシリンに飛ぶ。
ラミリアは、自宅にゲブラを留守番させた。
ゲブラは普通の少年のように、すこし、さびしそうにした。
ラミリアは、必ず帰ってくると約束した。

一行は、船のパスを手に、一路港へ向かった。


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