東の町エクス


シリンの港に行く。
港は、たくさんの船と人と物資であふれかえっていた。
相変わらずシリンは騒がしい。
ルートたちは船のパスを、登録所に持っていった。
登録所で登録を更新し、チェスコの船を案内してもらった。

わりと小さな、それでも丈夫そうな船だ。
案内員いわく、この船は水神の石を使っているから、ちょっとやそっとでは沈まないと。
水神の石とは通称で、船を操るのに魔力を使う、一種の制御装置のようなものだ。
それでも、一通り操作などを覚え、
船は出港した。

風を受けて船が走る。
皆で交代をして、水神の石を操り、
航路を決めていく。
潮風が心地よい。
今まで歩いていたよりも速いスピードで、
シリンから地図で示すところのマリス近くまで来ていた。
かなり南下したようだ。
ここから南に行き、さらに東でルナー、ルナーから少し南東、そこにエクスだ。

「風は凶風が吹くとか…」
ルートがつぶやいた。
確か、エクスまでの海路は、羅針盤が役に立たないとか、凶風が吹くとか。
そんな記憶があった。
「ルナー側を通るとそうなる。エクスの町近くではルナーの闇の衣はない。少し遠回りすればいいだろう」
ディーンが説明をした。
「わかりました」
ルートは答える。
「それでも、海は荒れることを予測したほうがいい」
「大丈夫、水神の石があるもの」
ラミリアが水神の石を示した。
「念のため、水神の石に二人でかかろう。そして、航路を決めておこう」
水神の石に、航路の設定などを行う。
「ジャクロウ、どの航路が最適と思う?」
「そうだなぁ…この辺荒れるって聞くし…ここを…こうして…」
ディーンとジャクロウで石の設定が行われ、
交代で水神の石を操り、
船は一路エクスへ向かった。

遠くにルナーの常闇が見える。
そして、海ばかりのなかに、常闇に入っていない、島が見える。
「あれがエクスの町のある島だ」
ジャクロウが言った。
なるほど、ルナーから近かったんだなとルートは思った。

船を泊めるにちょうどいい場所を探し、
一行は上陸した。
「さて、エクスの町に行くか。ちょっと急ぎたいしな」
ジャクロウが先にたって歩き出す。
ルート、ディーン、ラミリアと続く。

町影が見えてきた。
エクス独特の異国風の町並みが遠くに見える。
しかし、町の様子がおかしい。
活気も伝わってこない。
それどころか、人気も伝わってこない。
いち早く気がついたのは、ジャクロウだった。
「まさか…シーアン!?」
それだけつぶやくと、
ジャクロウは走り出した。

エクスの町は…瓦礫の山になっていた。
あちこちに、ちろちろと火が残っている。
古い瓦礫でないことがわかった。
人型をしたものは、炭化した人間だったものらしかった。
ディーンは呆然とした。
「まさか、ジュリアさんも…」
それだけを彼は言った。

ジャクロウはひざをついた。
「もう少し…もう少し早ければ……ちくしょう!」
ジャクロウは悔しさに土を握り、たたきつけた。
「とにかく、誰か生き残ってるかもしれません…ジャクロウさん、心当たりは?」
ルートは生き残っている勘だけはあった。
だからジャクロウに問いかけた。
「…」
ジャクロウはひざをついたまま考え…やがて、立ち上がった。
「ディーン、ジュリアっての、うちのタスク家で預かってるんだよな…」
「ああ…しかし…この様子では」
「タスク家には隠し部屋がある…もしかしたら…いや、きっと」
「隠し部屋…」
「とにかく行くぞ、誰かは生き残っているはずだ」
ジャクロウは希望を奮い立たせると、タスク家の跡地に向かった。

タスク家は見るも無残に壊されていた。
ジャクロウは懸命に隠し部屋の入り口を探す。
「ここが玄関で、ここが手合わせの間だから…多分ここの下に」
無言でディーンも瓦礫を取り除いた。
ルートもラミリアも手伝った。
そして、ジャクロウは階段を見つけた。
「おーい!、誰かいるかー!」
ジャクロウは呼びかける。
間があり、

「ジャクロウ様ですか!」
という、若い男の声がした。
「そうだ!ジャクロウ・タスクだ!」
ジャクロウは必死で答える。
「説明は中でします!早く中へ!シーアンに見つからないように!」
ジャクロウは隠し部屋に入っていった。
残りのものもジャクロウに倣って入っていった。


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