3つに分かれたもの


ルートはジャクロウに習って隠し部屋に入った。
全員が入ると、若い異国風の少年が、
隠し部屋を隠して出入り口をふさいだ。

「コトマル…生きてたか」
ジャクロウは少年に話しかける。
「奥に結構生き残っていますが…逃げ遅れた方は…シーアンに…」
「そうか…」
ジャクロウは隠し部屋の奥を見る。
ジャクロウにとって見慣れた顔がいくつもある。
ジャクロウは、少しだけ、ほっとした。
しかし、ジャクロウにとって大切な女性の顔がない。
それが、不安でもあった。

「タスク家使いの…コトマル…だな」
ディーンが尋ねる。
「はい」
「ジュリアさんは…どこだ」
ルートは、ディーンが言ったことで気がついた。
ジュリアの姿は、確かにない。
「…多分、まだ、生きてはいます…」
「多分?…どういうことだ!」
冷静なディーンに似つかわしくなく、感情が暴発した。
つかみかかろうとしたところを、誰かが止めた。
異国風の術師のような若い男だ。
「お前はタスク家使いアサキ…」
「ディーン様、気持ちは察しますが…」
「…すまなかった」
ディーンは手を下ろした。
「さて、私から事情を説明しましょう」
アサキは事情を説明し始めた。


エクスは代々日神コクマをあがめている町です。
日神コクマの力は、一人で使うには大きすぎると判断され、
日神コクマに神の力の核を残し、
大きな力を、3つの器に分けることになりました。
器とは神の力の器の人間のことです…ご存知でしたか。それは失礼。
そうして3つに分けられた力は、
代々3つの家によって、守られてきました。
剣術のタスク家、魔術のリュウ家、法術のローラン家です。
そして、今回の一件は…リュウ家のシーアンの起こしたことです。
シーアン・リュウ。
彼はリュウ家歴史まれに見る天才とされていました。
天才とされたからこそ、
彼におごりがあるか…または実力に裏打ちされたかはわかりませんが…
シーアンは、日神コクマの核を手に入れ…一つになった器…
新しい日神になろうとしています。
そして…


「そして?」
ディーンが聞き返した。
「日神コクマの供物にするため、女性を二人さらい、エクスの町を壊滅状態にしました…」
「その二人…片方はもしかして…」
ルートが言おうとする。
アサキは肯定する。
「はい、魔族のジュリアさん、そして、もう一人は、ローラン家のレイシさんです…」
「レイシ…がか」
ジャクロウは大切な女性の顔が見えないわけを、ようやく理解した。
レイシ、ジャクロウの大切な人。
アサキが説明する。
「レイシさんは、法術の器を代々守ってきた家系の、次の器を継ぐ者…そして…ジャクロウ様が慕っている人…」
アサキは言葉を区切る。
「タスク家の次の器、ジャクロウ・タスクという器を釣るためなら、これ以上ない餌扱いです」
ルートが、ジャクロウを見る。
ジャクロウは顔を背けた。
眼帯からは表情は伺えない。
アサキは淡々と説明する。
「ジャクロウ様、これはシーアンがジャクロウ様をおびき出す手段かと…」
「関係ない。シーアンはどこだ」
「今のシーアンは、日神コクマの核を手に入れようと…」
「シーアンはどこだ」
ジャクロウの眼帯をしていない目が、圧力をかけてくる。
アサキはため息をついた。
「風穴にいます。多分、ジュリアさん、レイシさんもそこに…」
ジャクロウは刀を手に取り、隠し部屋から出て行こうとした。
無言でディーンも続く。
「ジャクロウ様!」
アサキが呼び止めようとする。
「レイシは、俺にとって大切と思っていた人だ。それに…シーアンなんかにみすみすやられねぇよ」
ジャクロウは振り返り、太陽のように笑った。
「エクス日輪流師範代は伊達じゃないぜ」
アサキはあきらめた。
コトマルがおろおろしている。
そのコトマルを、ジャクロウはぽんぽんと頭をたたいてなだめた。
「必ず、けりつけて帰ってくる。それまで、この隠し部屋を守っていてくれ。頼むぞ」
ジャクロウは出て行った。
ディーンが続き…
「ほら、ルー君!ジュリアさんとかを助けるんでしょ!」
と、ラミリアに言われ、
ルートもあわてて外に出た。

一行は、エクスの町からしばらく歩いたところにある、
山中の風穴を目指した。


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