日神コクマ


風が吹いている。
岩がちの山肌をすべるように、風が吹く。
そして、山の中に開いた穴に風が吸い込まれる。
「ここが、風穴だ」
ジャクロウは言葉少なに言った。
そして、黙って入っていった。
ディーン、ルート、ラミリアが続いた。

風穴の中に入ると、
ルートは妙だと思った。
「明かり?」
ただの自然の洞窟のはずなのに、妙に明るい。
しかも、奥に行くように明かりが続いている。
ジャクロウが、明かりの部分を手に取った。
「エクスの方に伝わる、日の術のひとつだ。簡単な術で、俺でも使える」
「じゃあ、レイシさんが、ジャクロウさんを導こうと?」
ルートが聞いてみるが、ディーンが否定した。
「これは、シーアンとやらが誘ってるんだな」
ジャクロウは明かりの一部分を洞窟の中に戻した。
「やつの思い通りになるようで、胸糞悪ぃ…」
けっ、と、ジャクロウは吐き捨て、ずんずんと明かりを辿っていった。
ルートたちはあとを追った。

明かりがひときわ強くなっている奥が見えた。
「風穴のこの奥は…天然の湖と広間がある」
「そこに、シーアンとやらとジュリアさんが…」
「レイシもな…」
ジャクロウとディーンで静かに語りながら先を歩いている。
ルートは、シーアンがどういう人物なのかはよくわからないが、
エクスの町をぼろぼろにしたくらいだ、常人ではないだろうと感じていた。
ふと、ルートは、同じあたりを歩くラミリアが気になった。
ラミリアは何かを感じているらしい。
「ラミリアさん?」
ルートは話しかける。
「ルー君…あたし何かおかしいのかな?」
「なにか?」
「この奥に…何か、同じようなものがある気がするの…あたしと同じようなもの…」
「ラミリアさんと同じ?」
「ん…それを説明できないから…おかしいのかなって…」
ジャクロウとディーンはさっさと先に行ってしまっている。
ルートとラミリアは、あわててあとを追った。

日の術で明るくなった、天然の広間、
湖に突き出た天然の祭壇。
そこに、ルートから見れば異国風の鎧をまとった、
髪の赤い男が一人…そして…
「ジュリアさん!」
「レイシ!」
ディーンとジャクロウが叫んだ。
二人は祭壇にすえられている。
ルートがぱっと見る限り、外傷はないようだが、抵抗することがない。
眠っているのかもしれない。
「シーアン…この野郎!」
ジャクロウが刀を構え、駆け出した。
シーアンは薄ら笑いを浮かべながら、よけた。
ディーンが、助太刀と細身の剣を構える。
「手出し無用!」
ジャクロウが叫んだ。
ディーンは動きを止めた。
「シーアンは…俺がしとめる!」
ジャクロウは続けて叫び、シーアンに向き直った。
「…この日を」
シーアンがつぶやく。
「この日をどんなに待ち望んだか…ジャクロウ!お前を越える日を!」
シーアンが術を繰り出す。
それは、日の力を用いた、炎に近い術だ。
「日輪流、二十壱式!陽炎!」
ジャクロウが技の型を叫び、技を繰り出す。
光と熱が交錯する。
何度も、術と技が放たれる。
熱と力が、文字通りヒートアップして、広間を覆っていく。

そして…光の中で、シーアンがにやりと笑った。
「これだけの力があれば…日神コクマが降臨する…」
「なにっ!」
ジャクロウの驚愕は、遅かった。

「降臨せよ!日神コクマ!」

天然の広間の湖の上、
人影が姿を現し…徐々に人間の形を持つ。
そして、声が聞こえた。
「我は日神コクマ、我を呼び出したは…」
シーアンが叫んだ。
「我が名はシーアン!日神コクマのすべての力、そして、核を受け継ぐものなり!」
コクマはにやりと笑った。
「覚悟をしろ…分かたれたその力、ひとつにする覚悟を…」

広間にこもっていた熱や光が一点にまとまっていく。
コクマの右手だ。
そして、コクマの右手から、光が放たれる。
放たれた光は、シーアンに突き刺さって消えた。

ドクン

シーアンの中で何かが反応する。
「これが…これがひとつとなった神の核…」

ドクン
ドクン

「うぐっ…がっ…」

ドクンドクンドクン

「ぐわあぁぁぁあ!」

シーアンは絶叫した。
身体から熱と光が放たれ…シーアンは倒れ、
熱と光はコクマの右手に戻った。

「核をおさめるほどの器ではないということか…もろいものよ」
コクマがつぶやいた。

ジャクロウはシーアンに駆け寄る。
その間に、ディーンが眠るジュリアを抱きかかえ、
ルートとラミリアはレイシを二人がかりで祭壇からおろした。

「おいっ!シーアン!」
シーアンの身体は、消し炭のなりそこないのようになっていた。
それでもシーアンは言葉をつむぐ。
「ジャクロウ…私はお前を越えられなかった…お前ならば…神の…」
シーアンはそれだけ言うと、絶命した。
ジャクロウは湖に向き直った。
そして、ジャクロウは、湖に浮かぶ日神コクマに怒鳴りつけた。
「コクマ!お前の力、お前の核!すべて、俺が継いでみせる!」
日神コクマは、シーアンのときと同じように、右手から光を放った。
それはジャクロウを突き刺し…ジャクロウに消え…

ドクン

ジャクロウはうめきだした。

ドクン

それでも、ジャクロウは笑う。
「この程度かよ…神様の力ってのは、この程度なのかよ…!」
日神コクマは、満足そうにうなずいた。
ジャクロウは倒れた。
意識はあるのか、荒い息をついている。

日神コクマの姿が消えた。

風穴が音を立てて崩れだす。
ルートはレイシをラミリアに任せると、
苦しむジャクロウを引きずるようにして、祭壇を降りた。
明かりを頼りに入り口まで戻ると、
風穴は跡形もなく崩れ落ちた。

ルートは肩を貸しているジャクロウを見た。
ジャクロウは苦しそうではあったが…
何か、今までのジャクロウにない何かを手に入れたようであった。


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