過去にあるもの


一行はエクスの町に戻ってきた。
隠し部屋に向かい、
シーアンが絶命した旨を話した。
そして、隠し部屋から住民が出てきて、
エクスの町の復興をすることとなった。

ジャクロウとレイシとジュリアは、
隠し部屋の寝床に寝かしつけられた。
ジュリアには傷ひとつなく、
ジャクロウは苦しそうに眠っている。
レイシはまもなく起き上がり、
ジャクロウの看病を買って出た。
アサキは複雑な表情をした。
コトマルはわからないようだ。

ジャクロウの看病をする、
レイシの隣に、アサキが腰掛ける。
そして、話し出す。

「レイシ様…」
「なに、アサキ」
「ジャクロウ様を看病することに、抵抗はないのですか?」
「…アサキにはわかってるの?」
「ある程度…少なくとも、レイシ様がシーアンを慕っていたことくらいは…」
「そう…」
レイシはジャクロウの額の冷やし布を取り替えた。
ジャクロウの、頭を覆っていた布をはずすと、そこは短い黒い髪。
黒い髪の額にかかっている部分が、冷やし布でぬれた。
「私は、シーアンが神様になるなら、それでもいいと思ってた…」
「レイシ様がいけにえになろうとも?」
「ん…でも、神様になったら、私のことを見てくれなくなりそうで…それも怖かった」
「レイシ様の中に、ジャクロウ様はいなかったのですか?」
「ジャクロウはね…シーアンを救ってくれると思ってた…私が救えればよかったけどね」
「救えなかった…」
「シーアンはわかってたのかもしれない…神様になれないこと…」
レイシはため息をつく。
「シーアンの中に、私はいなかった…それが、かなしい」
レイシはジャクロウの汗をぬぐった。
眼帯をつけたままのジャクロウの黒髪が、ゆっくりとぬぐわれるほうに流れた。

隠し部屋に一人の女性が入ってきた。
「シノさん!」
と、コトマルが駆け寄っていった。
シノはよくわかっていないようだが、コトマルは半ば責めるようにシノに言葉を浴びせた。
「タスク家使いともあろう人が、有事にいなくてどうするんですか!」
「何、あたしが旅行している間、エクスに何があったの?」
「まぁ…シーアンが暴走して…いろいろと」
コトマルはごにょごにょと言葉を濁す。
シノはある程度察したらしい。
「詳細はあとでアサキあたりから聞くよ。そうそう、土産。アージュのお酒だよ」

「アージュ…」
今まで眠っていたジュリアが、その一言で目覚めた。
「ジュリアさん、大丈夫ですか?」
ディーンがジュリアを心配する。
「大丈夫…ところで、アージュ?」
ジュリアの問いに、アージュ旅行帰りのシノが答える。
「はい、アージュです。お酒のおいしいところなんですよね」
「ああ…」
ジュリアは肯定する。
そしてジュリアは過去を思い出した。

アージュ…風神ホドを祭る町…
そして、15年前の魔狩り…
悪魔や魔女、魔族を狩る…そんな名目の虐殺…
父も母も殺された…
緑色の瞳だということで…魔族ということで…
ご神託があったのは、魔狩りのあと…
ジュリアが殺されかかったとき…
ジュリアは…

ジュリアは身体を起こす。
「…アージュに行こう」
ジュリアが提案する。
「旅行…ではないですよね?」
ルートが聞き返す。
「アージュは風神ホドを祭っていて、多分、神の器云々について聞けるかと思う…それだけだ」
ジュリアは独り言のように言う。
「いいんですか?」
ディーンが念を押す。
ディーンは知っている。
ジュリアの目の前で父と母が殺されたことを。
その、ジュリアにとって、つらい地を踏ませることを…ディーンは心配した。
「心配するな…時はたった。きっと…変わってる」

念のため、数日、一行は休んだ。
ジャクロウは苦しがっていて目覚める気配はない。
そんなジャクロウを、レイシは懸命に看病した。

ジュリアはジャクロウが目覚めたとしても、
しばらくは戦力にならないだろうと言った。
ルートも、なんとなくそれは感じていた。
そして、一行は地図広げ、アージュの場所を確認する。
ディアンの北西だ。
「テレポストーンも使えませんし…とりあえず船旅ですね」
ルートが言う。
「とりあえず行くのは…僕、ディーンさん、ラミリアさん、ジュリアさん…以上ですね」
「そうね」
と、ラミリア。
「異論はない」
と、ディーンが答えた。

一行は復興中のエクスを後にし、
船でアージュを目指した。


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