ゆかりの地


アントスは一行を席につけると、
奥から古めかしい本を持ってきた。
「まぁ、私が神の器について知っている…その大元の本だよ」
アントスはそう説明した。
「昔…かぼちゃ頭のおかしな男がやってきてね…」
「かぼちゃ頭?」
ルートが聞き返した。
「私がまだ見習い神官のころだったから…もう、何十年も前だが…知っているのかな?」
「ええ…かぼちゃ頭だって言うことくらいしか共通しませんけど…」
「代替わりして、かぼちゃ頭でもしているのかな…まぁ、彼が置いていった本だよ」
アントスは本の内容を語りだした。


神の器は、その神の、ゆかりの地で生まれるものである。
光神ケテルは、ラクリマの町、
日神コクマは、エクスの町、
月神ビナは、ファナの町、
炎神ゲブラは、シリンの町、
水神ケセドは、ラシエル、
風神ホドは、アージュの町、
地神ネツァは、ディアン、
死神イェソドは、ルナー
しかし、愛神ティフェレトをゆかりとする地は、
今は失われてしまった。
時神マルクトをゆかりとする地は、
聖地セフィロト、その地である。


アントスはそこまで言って、ため息をついた。
「その地で生まれたものが、器になる可能性があると…この本はそういっている」
アントスはそうまとめた。

ルートは考え、発言した。
「ええと…以前、環境的な異変が起こっていて…それについて、ラシエルで調べてもらったんです」
「ああ、そんなこともあったな…砂漠の水が減ってたりな」
「ファナの近くでは、魔法の木がトレントになりました」
「言ってたな、そんなこと」
ジュリアが相槌を打つ。
「はい、それで、ラシエルでジュリアさんがさらわれて…その後に聞いたんですけど…」
「そういえば、こいつがさらったんだったな」
ジュリアがディーンを軽くにらむ。
ディーンは困ったような顔をした。
「ラシエル王、クライルさんの言うことには、神の力を移す時期がほとんど重なっていておきている…と」
「神の力を移す時期…か」
「クライルさんは、すべて、と、みていました」
「なるほど…」
アントスはうなずく。
「それで、僕たちはジュリアさんを助けようと、とりあえずルナーに赴き…」
「そうそう、ルナーで光神とミッ君…」
「ミシェルさんにだけ、光神の衝撃波が、効果なかった…」
「そんなことがあったのか?」
ジュリアが聞き返す。
「はい、そして、光神はご神託としてラクリマの民を扇動し…ミシェルさんは光の魔法でラクリマの民を消し去り…」
「そして、どこかへ転送されたのよね…あの魔法、相当高度な魔法よ」
ラミリアが魔法について推測する。
アントスは話を聞き、
「ミシェルという者の…出身は…」
「…ラクリマ、そう聞いています」
ルートは答えた。
「間違いはあるまい…そのものは光神の次の器だった…」
アントスは言った。
ルートも、多分そうだと思った。

ルートは次の話をする。
「次は…シリンでラミリアさんの家に行ったとき、からですね」
「炎神ゲブラ、あの子があたしの家にやってきた」
ラミリアは話を続ける。
「マリスの地下で、あの子と戦って…あの子とわかりあえたとき…何か、流れ込んだ気がして…あたしの中に収まった気がしたの」
「ラミリア、あんたの出身は…」
ジュリアが問いかける。
「シリン…」
「ところで、炎神とやら、あの子扱いしてるけど…」
「ジュリアさんは見ていないんですね。少年の神でした」
ディーンが話を補う。
「そっか…そういうのもいるのか」
ジュリアは納得した。
「とにかく、あたしはあの子から受け取った…形あるものじゃないけど…確実に」
ラミリアは言葉を選んで話す。
ジュリアもなんとなく感覚がわかっているようだ。

「そして、エクス出身のジャクロウさん…」
ルートが話を切り替える。
「風穴の戦いの末、日神をシーアンが呼び出し…」
「シーアンは核を入れた器となれずに、絶命した」
ディーンが話す。
ルートが肯定する。
「はい、そして、ジャクロウさんは日神の力をすべてついで…多分今もエクスにいます」
アントスが話を聞き、問いかけを入れる。
「エクスは3つに器を分けていなかったか?」
「はい、確かに」
「3つに分けた分、それぞれの器に、なみなみと力がみなぎっていた…それを1つにするのは、たやすいことではあるまい」
アントスは続ける。
「そのものの素質しだいだが…真の器ならば、しばらくすれば収まるであろう」
アントスの言葉に、ルートは少しほっとした。

「さてと…」
ジュリアが切り替える。
「今までの感じから察するに、光、日、炎、風…このあたりは継いでいるみたいだね」
「そうですね」
ルートが相槌を打つ。
「じゃあ、これからどうするか、だ」
ジュリアが議題を出す。
アントスが答える。
「竜人の力を借りる…それがいいかと思う」
「竜人?」
「風の終わる場所という名の島に住まう長命の種族だ。私よりも、当てになるかと思う」
「よしっ、それじゃそこに…」
「まぁ待ちなさい」
ジュリアを、アントスがやんわりと止めた。
「風の終わる場所には、ラシエルの宝がないとは入れないという…」
「ラシエルの…宝?」
「まず、ラシエルに向かいなさい」

一行はアントスの家を辞し、
テレポストーンがまだ覚えていないため、
船旅でラシエルとシリンの間道あたりを目指した。


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