真実を見極める


ルートたちは、ラシエルとシリンの間道の近く、
なだらかな海岸に船を泊めた。
少し歩くと間道に出た。
以前この間道を歩いたのは、フェンダーとクライルが一緒で、
あの時は、シリンを目指していた。
今は、逆を行き、ラシエルを目指している。
ルートは不意に、振り返った。
「どうした?」
ジュリアに怪訝な顔をされた。
「いえ…勘…が」
「勘?」
「なんでもないです。気にしないでください」
ルートは、そんなわけないと、心で打ち消した。
ルートの勘が、フェンダーとクライルは生きていると、そう、告げていた。
ルートは頭をぶんぶんと振り、また、ラシエルに向けて歩き出した。
あの爆発で…生きているわけが、ない、と、もっともらしい理由をくっつけ、
ルートは珍しく自分の勘を否定した。

魔法王国ラシエルに…
クライルはやっぱり不在だった。
その代わりに、ラシエルにいる者が、それぞれ役割を分担し、
ラシエルは機能していた。
ルートたちは、一応のまとめをしている、大臣役に話を聞くことにした。

「ラシエルの宝…ですか」
大臣は考え、やがて、思い当たるところを見つけたらしい。
「真実の見えるものに、渡せ、と、言われるものがあります」
「それはどういうものですか?」
ルートがたずねると、大臣は記憶を頼りに話し出した。
「クライル様が自室に隠したものといわれます。ある種の結界を破れるとか…」
「風の終わる場所に、入るために必要と言われたのですが…」
大臣はちょっと考えたが、
「私が伝え聞いているのは、真実が見えるものに渡すこと。そして、真実を見るための町があること、です」
「真実を見るための町?」
ルートが聞き返す。
「はい、ラシエルから東に行くとシリン、シリンの町からさらに船で東に行きます。すると孤島に町があります」
「そんな町、聞いたことないわよ」
ラミリアが割り込む。
大臣は続ける。
「真実を見るためにあるといわれる町です。そこで真実を見つけてください」
「…わかりました」
「私は、風の終わる場所とラシエルの宝についての、接点を調べておきます」
「ありがとうございます」
ルートは礼を言いその場をあとにしようとした。
「そういえば、クライル様は?」
大臣が聞いた。
「どこかで…生きています」
ルートは、自分で先ほど否定したことを忘れ、勘のままに話した。
大臣はなんとなく納得した。
ルート自身、それが一番いいような気がした。

一行は一路、東の孤島を目指した。

ためしにテレポストーンを使い、
シリンへ。
テレポストーンは水神の石と共鳴しているらしい、
シリンの程近い小さな港に、船はついてきた。
(これでラシエルに戻るときも楽だな)
などとルートは思った。

シリンの港から、東へ。
地図に島は載っているが、町という記述はない。
多少疑いつつ、船を走らせると、
孤島に…町影らしいものを見つけた。

一行は上陸した。
町に入ろうとすると、ひどいめまいが襲って視界がゆがんだ。

そして、次の瞬間見たものは…
同じ身長、同じ服装、髪型から顔のパーツや、身体のパーツの、すべてにいたるまでが同じの、
一般人…としか形容できない格好をした、群衆だった。
それが、町、とされるゆがんだ建物の中を徘徊している。
「ここから真実を探せ…ってことか?」
ジュリアが半ば、げんなりする。
ディーンが試しに群衆の中の一人に声をかけてみた。
すると、
「子守唄を歌いなさい、子どもが安らぐように」
わけのわからないことを言われ、群集からその人は消えた。
ラミリアもためしに声をかける。
すると、
「火の元はちゃんと始末していますか?」
と問いかけられ、やはりその人は消えた。

「恋と愛とは違うようです」
「誰にも間違いはあります」
「心の窓を拭きましょう」
「思い出を大切にしなさい」

ジュリアは片っ端から声をかけ、片っ端から人を消していったが、
群集は減っている気配がない。
減っているのかもしれないが、多すぎてよくわからない。
彼らに悪意はないのはわかるが、
同じパーツで構成された人が、群集となると、おかしくなりそうだった。
ふと、ジュリアはルートがいないことに気がついた。

ルートは、ゆがんだ町のゆがんだ路地にやってきた。
勘がそこだと指し示していたからだ。
路地から猫が出てきた。
猫の出てきた先には、群集と同じ姿の…ルートの勘では決定的に違う人がいた。
「あなたがオリジナルですね」
複数の猫と戯れるその人物を、ルートはオリジナルと断言した。
その人は猫を足元に置くと、
「最速記録ですよ」
と、ルートに向けて笑った。

「真実にこんにちは。そして、私とさようなら」

オリジナルは夢見るように歌うと、
ルートたち一行は、ゆがんだ町から外に出ていた。
ゆがんだ町の感覚から、元に戻るまで、
一行はしばらく孤島の端っこに腰掛けて、
ルートがオリジナルを見つけたことなどを情報交換した。

「最速記録って言われましたよ」
ルートが告げると、
「いったい何を頼りにしたんだよ、あんな町で」
と、ジュリアがたずねる。
「勘、です」
ルートがありのままに告げると、ジュリアはあっけに取られた。
ディーンがラシエルに戻るかと提案した。
異議を唱えるものはなく、
一行はテレポストーンでラシエルに戻った。


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