水神ケセド


ルートたちはラシエルに戻ってきた。
まずは、ラシエルの大臣役に、真実が見えたことを伝え、
そして、風の終わる場所とラシエルの宝の接点を聞くことにした。
「接点はありましたが…」
「が?」
ルートが聞き返し、大臣が答える。
「はい、風の終わる場所には結界が張られていて…」
「ふむ…」
「その結界を破るには、ラシエルの宝ともう一つ」
「もう一つ、ですか?」
「風神の力を持った者が必要とのことです」
パーティーの視線が一斉にジュリアに集まる。
ジュリアはちょっと驚いたようだが、
しょうがない、というように頭をかいた。
ルートは大臣に向き直る。
「とにかく、ラシエルの宝が必要です」
「わかりました」
大臣はクライルの部屋に一行を案内した。

「どこに隠されているのかは、わかりませんので…私はこれにて」
「ありがとうございます」
ルートは大臣に礼を言い、
大臣は職に戻っていった。
それを見届けてから、
ルートはクライルの部屋を見渡した。
本が多数ある。
それはいいのだが…
部屋に入ってから、何か、圧迫するような感覚がある。
ジュリアが部屋のあちこちを探っている。
ディーンは床をこつこつたたいている。
ラミリアは本棚に何かないかと見ている。
ルートは、ふっと、部屋の隅に目をやった。
「…南瓜丸さん?」
その南瓜丸らしい影は、ルートの見ている前で、部屋の隅に消えた。
ルートは南瓜丸の影の消えた箇所の床を足でたたいた。
空虚な音がする。
ジュリアが飾られている杖に目をつけた。
動かすと、ルートが目をつけた箇所の床が開き、地下へと続く階段が姿を現した。
「ここを…下れってことですかね」
ルートの言葉に皆はうなずき、階段を下っていった。

階段は地下へ地下へと続いていく。
天然の地下道のようだ。
そして、圧迫する感覚は、より、強くなっていく。
「この感覚は…間違いない」
「うん…」
ジュリアとラミリアが納得する。
ルートもディーンも、うすうすわかっていた。
いる、この地下に。

地下の終わりに祭壇があった。
古めかしい金属の箱が置かれている。
そして、その祭壇に…
圧倒的圧迫感を持った…
「神…」
ルートは知らずにつぶやいた。
「そう、私は水神ケセド…あなたたちですね、器のことを、かぎまわっているのは」
清らかな水の流れを髣髴とさせる、美しい女性だ。
水神ケセドは手を上げる。
水妖が何匹も現れた。
ルートは見覚えがある。
以前ラシエルを襲ったやつらだ。
「この力も、ラシエルの宝も、あなたたちには渡さない!私には、まだ、すべきことがある!」
ケセドが水妖を放った。
水妖は濁流のようにルートたちに向かってくる。
「器には力は渡さない!たとえ、誰を犠牲にしても!」
ディーンが剣を構え、水妖を断つ。
ラミリアの炎魔法で、水妖が水蒸気に変わった。
ルートとジュリアはケセドに突っ込んでいった。
ルートがケセドの身体に剣を振り下ろす。
それは、水が作り出した幻影で、
水がそこに広がっただけだった。
「くそっ」
ルートが舌打ちする。
「どいてろ!ビッグトルネード!」
ルートは反射的によけ、
ジュリアが風魔法を繰り出す。
水を元にした幻影は、たちまち掻き消えた。
ルートは再び剣を構える。
今度こそ外さないように。
「負けない…負ける…ものですか!」
ケセドは何かに執着しているように必死だ。
光神とは違う執着を、そこに、見た。
ケセドは水妖をさらに繰り出す。
ルートは水妖を後ろに任せる。
「どいていろ!」
後ろからディーンの声がかかる。
「コメット!」
ディーンの魔法の叫びから、星屑と思われる小石の塊が、
超高速であちこちに突き刺さる。
水妖は一瞬にして、星屑で水に帰った。
「おとなしく…次の器に力を渡し…ラシエルの宝を…」
ディーンが話しかけるが、
ケセドは拒否した。
「絶対に負けない!あのことを遂げるまで!」
ケセドは涙を流していた。
泣いていることに気がつかないようだった。

ルートは、今までの神々の戦いから、なんとなく感じることができることがあった。
それは…
ケセドは、力を失いかけている。
おそらく、次の器に大方移っているのだろう。
そして多分、ケセドもそのことに気がついている。
だからケセドは必死なのかもしれない。
何を遂げようとしているかは、わからないが…
ルートは、そんなケセドを哀れにも思った。

「いや!いやだぁ!」
ケセドは半狂乱になりながら、
水で攻撃を仕掛けてくる。
氷魔法を繰り出そうとするが、
魔力が足りずに、水が放たれるような状態だ。

そこへ…地下のそこへ…
すがすがしい風が吹き、
黒い長い髪を一つにまとめた軽装の男が姿を現した。
「もうやめな、ケセド」
軽装の男は、ケセドに、声をかけた。
「ホド…」
ケセドは確かにそう言った。
そして、ケセドはあがくことをやめた。


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