風の終わる場所


位置はラシエルから南。
風の終わる場所は、孤島の…険しい山だ。
水神の石を操りながら、
ルートたちは風の終わる場所を目指していた。
今はラミリアが水神の石を操っている。

甲板に出ているジュリアが空を見上げた。
つられてルートも空を見上げる。
青い青い空だ。
「神…か」
ジュリアがつぶやく。
今や、ジュリアは風神、ラミリアは炎神だ。
本人たちに自覚は少ないようだが、
それでも神の力は継がれたようだ。

「ジュリアさん」
ディーンが甲板の日陰から、ジュリアに声をかける。
「なに?」
「ホドに…言いたいこととかなかったですか?」
「ホドに…か」
ジュリアは少し考える。
「いろいろあるような気がする」
ジュリアは言う。
「けど、多分、アージュを酒の町にしたのも、多分ホドだ」
「…わかるんですか?」
「神の力の記憶が示している…っていうのかな。あたしもよくはわからないけど…」
「けど?」
「ホドは、アージュを変えるように向けてくれた。それについては…礼を言いたい」
ジュリアは風を感じる。
「アージュは、いい風を持つ町になってたよ。いい、故郷になった」
「よかったですね」
ディーンは微笑んだ。
ジュリアも微笑んだ。

不意に、影。
見上げていたジュリアが、目を細めて、影の正体を見ようとする。
何か飛んでいるもののようだ。
日陰にいるディーンも空を見上げる。
「ドラゴン…」
ディーンはそう告げた。
一瞬船に影を落としたドラゴンは、
そのまま、どこかへ飛んでいってしまった。
「風の終わる場所には、竜人がいると聞きました。それと関係があるかもしれませんね」
「空を飛ぶのもいるって?」
「ルナーにも翼竜の部隊がいるくらいです。竜人のいるところなら、なおさら」
ルートは、ディーンの分析を聞きながら、
ドラゴンが飛んで行ったらしい空を見ていた。
船を覆うほどの影を持ったドラゴン。
その背に乗れないだろうかと、思った。

一行は、
風の終わる場所と呼ばれる、孤島に、まもなく到着した。
岩陰に船を泊めると、
入り口を探した。
ジュリアが風を見ている。
「こっちだ、風はこっちで結界を作ってる」
ジュリアが読んだ風の先には、
陽炎のように、ゆがんだ登山口らしいものがあった。
風が扉のようになっていて、来るものを拒んでいるようだった。
「ルート、プロテクトイーターを貸してくれ」
ジュリアは、緑の石をルートから受け取ると、
集中した。
緑の石が明るく輝き、
キィィと共鳴音が鳴り、
風の結界…ゆがんだ扉は消えた。
「さ、行くか」
ジュリアは、プロテクトイーターをルートに返し、
一行は風の終わる場所に入っていった。

風が孤島を取り囲むように回っている。
「ルート、見えるか?」
ジュリアがルートに問いかける。
「何がですか?」
「風は一度この島で終わる。そして新しく吹いていくんだ」
ルートはよくわからなかったが、
険しい山のあちこちに、エクスの風穴とは比べ物にならないほど、
風穴があちこちにできていた。
「風が強いから、足を取られるなよ」
ジュリアは皆に注意して、ひょいひょいと上っていく。
「水を得た魚、風を得たジュリアちゃんね」
ラミリアが軽口をたたく。
ルートは、それもあっているかもしれないと思った。

ジュリアは風を読みながら、一行を先導する形で進んでいく。
険しい岩山のある地点で、
ふと、ジュリアが立ち止まった。
「分かれてるな…上へ向かうのと、中へ向かうの」
ジュリアは考え込んだ。
「ルナーの翼竜に近い気配は、上からする」
ディーンが助言する。
「じゃ、上だな」
ジュリアが上へと向かおうとする。
ルートとラミリアが後に続く。
ディーンは続こうとして、ふと、感覚に引っかかりを感じた。
「中のほうは…結界か?」
ゆがんだ扉のような気配。
風の終わる場所の入り口とは、性質が異なるようだ。
ディーンはそれを感じた。
「おいてくぞー!」
少し上ったところで、ジュリアが怒鳴った。
ディーンはあわててついていった。

上のほうに上がるにつれ、
岩山は険しくなってくる。
それでも、上へと向かう風の道筋を頼りに、一行は登っていった。
そして、岩山の上。風が終わる場所。
取り囲むようにめぐる岩肌に、風が回っているところに、普通の扉。
ルートが扉を開いた。

そして、静かな、小さな村を、一行は見た。


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