風の終わる場所・内部


ルートたちは、風の終わる場所の分岐点から、
内部を目指した。
ジュリアが風を見て、先導してくれている。
ルートはジュリアについていきながら、
歩きながら何かを考えている、ディーンに話しかけた。
「竜人の村から…何か考えていますか?」
ディーンがぽつぽつ話し出す。
「昔のことを…思い出していた」
「昔のこと、ですか?」
「剣の、師匠のことだ…」

ディーンには剣の師匠がいた。
師匠は、どこかからルナーまで、通って剣を教えに来ていたこと、
師匠がどこに住んでいるかわからないこと、
師匠は、死というものを特別視していたこと、
そして、師匠は…

「師匠は、ある日からふっつり来なくなった」
「来なくなったんですか?」
「うむ…ただ、お前のリューンを手に入れろという走り書きを残してな」
「リューン…」
「それ以来、リューンというものを追って旅をしていた時期もあった。そういうことだ」
「どうしてそんなことを思い出したんですか?」
ルートがなんとなく問いかける。
「うまく説明ができないが…」
と、ディーンは前置きして、
「最近、師匠の波長に似てきた気がする。それで、先ほどの石が黒くなったのかもしれんと…それだけだ」
「そうですか」
前方でジュリアが振り返っている。
男たちは先を急いだ。

風の終わる場所の内部。
険しい山の中には、闇色の扉があった。
「ルート、プロテクトイーターを貸してくれ」
ディーンが言う。
ルートが差し出す。
ディーンは集中する。
(お前も、それができるくらいになったか)
不意にディーンの頭の中に、男の声が響く。
(集中しろ)
男の声は集中を促す。
ディーンは目を閉じた。
ディーンの中には、ディーンと、…あの時姿を消したはずの剣の師匠がいた。
(ディーンよ…久しぶりだな)
師匠は心の中で問いかける。
ディーンは何か言いたいのに、言葉にならない。
(お前に常々問いかけた、その問いを覚えているか?)
ディーンは思い出す。
(お前は、死というものをどう考えている?)
師匠が問いかける。
ディーンは考え、心で話す。
「生あるものに平等に訪れるもの。忌むべきものではあるが、生がある以上、死は避けられない」
師匠はうなずいたようだ。
そして、次の問いをする。
(お前は、永遠の命について、どう思っている?)
ディーンは考え、心で話す。
「死があって、人は生の大切さを知るかもしれない。大切な人を思うことができる。思うに、永遠の命は必要ない」
ディーンの心の中、師匠はうなずいた。
(お前が死と隣り合わせのとき、私はお前の傍らにいた…交信するまでに時間がかかったがな)
師匠が闇色の光を繰り出す。
(受け取れ、俺が…死神イェソドが、その器と認めたものに、継がせるものだ)
「イェソド…師匠」
(お前は良質の器だ。いや…すでに次の死神。ルナーを、世界を、頼むぞ)
そして、師匠の影は薄くなり…闇色の空間の中、
師匠の緑の目だけがきらめいた。
(リューンを取りに来い。きっとお前に必要になる)
その言葉が最後だった。

「ディーンさん」
聞きなれた声で、ディーンは心から引き戻された。
ルートの声だ。
「やっぱり、結界と波長が合ってたみたいですね。物の数秒で解けちゃいましたね」
「…数秒?」
「…何かありましたか?」
ルートは、何かしらの勘があった。
「私は…次の死神らしい…先代の死神イェソドと、心で交信していた…」
「あの数秒で?」
「永遠のような時間にも思われたよ」
ディーンはルートにプロテクトイーターを返す。
「死神の力が継がれた、私をどう思う?」
ジュリアが、ぽんぽんとディーンの肩をたたいた。
「ディーンはディーンだろ。継がれる力云々は、もう、びっくりしないさ。あんたはあんただ」
ジュリアは、にっと笑った。
ディーンが安心したように微笑んだ。
ディーンの微笑を見ると、ジュリアは照れたように視線をはずした。

「と、とにかく、地竜の魂を入れるんだろ、い、行くぞ」
ジュリアはぎこちなく先にたって歩いた。
「あー、ジュリア照れてるー」
ラミリアがジュリアについていって冷やかす。
「うるさい!」
「恋してる?どきっとした?」
「あー!うるさいうるさい!」
「この乙女に相談してみなさいよー」
「お前はオカマだろ!」
「オカマのどこが悪いのよー。あたしだってー…」
言おうとして、ラミリアは言葉を区切り、
「あたしのことは、生きて帰れたら、教えてあげるわよ」
と、色っぽく笑った。
「教えてもらおうじゃねーか」
ジュリアが不敵に微笑む。
「さ、みんな行きましょ」
「おいてくぞ!」
先にたってジュリアとラミリアが行く。
後からルートとディーンがついていく。

パーティーは、結界のとかれた扉から、中に入っていった。


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