地神ネツァ


扉の向こうは、広い広い広間だった。
洞窟の中を、くりぬいて、
広間にある程度整えたようなところだ。
天井が高い。しかし、壁や床などとは言えなく、岩をくりぬいただけの構造だ。
先に立ったジュリアが広間を見渡す。
そして、足元で、
「にゃーん」
と、声。
ジュリアが目を向けると、そこにはかなりの数の猫が。
「猫…だな」
ジュリアが手に取ろうとすると、猫は空虚にすり抜けた。
ルートは奥を見る。
かなりの数の、猫の目が、奥からこちらを見ている。
敵対するような気はないようだ。

足音が奥からした。
「ケセドさんは、抱え込む人だった…」
奥から男の声がした。
足音が近づいてくると、男の声も近づいた。
「ケセドさんの慰めになるように、いろんなことを試していた…」
男が視界に入る距離まで来た。
「俺が地神ネツァだ」
短い金髪の、筋肉隆々たる男。
美青年というかは人それぞれだが、悪い印象はもたれないだろう容姿だ。

「さて…イェソドの結界を破ってまで、ここまで何しに来たんだ?」
地神ネツァはルートたちに問いかけた。
「地竜の魂を、譲り受けに来ました」
ルートは包み隠さず話す。
ネツァは少し考え、
ぱちんと指を鳴らす。
空虚な猫たちが、道をあけた。
そこから、地響きをさせて、なにかがやってくる。
「地竜だ」
ネツァは言う。
地竜はやってくると、大きな広間の、高さ一杯の大きさだ。
「戦って勝てたら、魂を持って行け。俺は手出しはしない」
ネツァはそういうと、広間の片隅に座った。
地竜がほえた。
それが戦いの合図となった。

ジュリアの短剣が、地竜の首を狙う。
スパッと切れたが、地竜にしてみれば、わずかなダメージであるらしい。
「確実にしとめたいね…」
ジュリアがつぶやく。
「いくよ!どいてて!」
後ろからラミリアの声がする。
反射的に、ジュリアが飛びのく。
「メガファイア!」
ラミリアが炎魔法を放つ。
それは、継いだ神の力もあり、かなり強力なものになっていた。
あっという間に地竜の身体を包み込むが、
地竜は、それでも生きていた。
傷がないわけではない、生命力が強いのだ。
魂を持っていくのは、至難の業かもしれない。

(どうにか、この戦いに勝ち、魂を…)
ルートは考える。
そのルートの横に、ディーンが地竜の踏みつけと距離を置いて、跳躍してきた。
「どうする?」
ディーンがルートに問う。
「なんとか…魂だけでも、とは、思うんですけど…」
ディーンが、不敵に微笑んだ。
「仮にも死神となってしまった今だから、見えるものがある…」
ルートがディーンを見返す。
ディーンはジュリアに向かって叫んだ。
「風を!」
ジュリアはうなずくと、早口で詠唱を始めた。
地竜が鋭い爪でルートとディーンを狙う。
二人は跳躍し、爪は地面を引っかいた。
「いくよ!ビッグトルネード!」
ジュリアが大きな風を起こす。
引っかかれた地面から、大きく小さく、石が上がる。
間髪いれずにディーンが叫んだ。
「コメット!」
舞い上がった小石は、地竜の首を目指して、流星のように突き刺さる。
「行け!ルート!魂の殻がはがれた!」
ルートは、感覚的に、理解した。
言葉ではない、何か。
ルートは右手に剣を持ち、左手にソウルボールを持った。
そして、首のえぐれた地竜に向かって走っていく。
わずかに、首から光が見えた気がした。
ルートはためらわず、地竜の首を切り落とした。
そして、光を…ソウルボールにおさめた。

ズウゥン…

大きな地竜が、巨体を倒した音がした。
広間の隅から、拍手。
「どう攻めるかと思っていたら…魂の殻をはがす一点にかけるとはな」
ネツァがゆっくり歩いてくる。
「その戦法、イェソドか…」
ネツァが問いかけると、ディーンはうなずいた。
「わかった、その魂、持っていけ…だが」
言葉に、パーティーが身構える。
「身構えることじゃない。…ただ、ケセドさんの安否が知りたい。知っていたら教えてくれ」
「あなたは、結界を張って、ここにいて…」
ルートがそういうと、ディーンが少しの訂正をかける。
「自分の結界でなく、イェソドに張ってもらったものだ…」
ネツァがうなずく。
「ケセドさんに迷惑かけたくなかった…だから、ここに閉じこもっていた…でも、気になる。ケセドさんは、元気だろうか…」
ルートが、それに答える。
「ケセドさんは、次の器に力を継いで、人として、ラシエルにいます。多分、元気ですよ」
それを聞くと、ネツァは驚いたようだった。
「水神の反応は、竜人の村からしているのに?」
ルートも、また、驚いたが、ケセドは人に戻ったということを、改めて告げた。
ネツァは少し考えた。
そして、地面に向かって手を伸ばした。
「俺の力を継ぐものがいる。名前はフェンダーという…場所はわからないが、どこかにいる」
「フェンダーさん…」
「この地に足がついている限り、俺の力は確実にフェンダーに継がれる」
「でも、フェンダーさんは…」
アインスの地で…と、ルートは思った。
「フェンダーは、生きている。場所は特定できないがな」
ネツァは地面に手を置いたまま、光を地面に流し込んだ。
「これで、全部だ」
ルートは、言わんとしていることが、なんとなくわかった。
すべての力を核も、次に継がせて、彼も人になったのだ。
「俺はラシエルに行く。ケセドさんを…幸せにしたい」
「きっと、できますよ」
ルートは、そうなるであろう、勘があった。

ネツァとパーティーは広間を出ると、
それぞれの道を行った。
ネツァはラシエルへ、そして、パーティーは竜人の村へ。


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