宴、そして空へ


ノエルが先にたって、屋敷の中のイディアを探す。
イディアは奥の部屋にいた。
誰かと話している。
扉を少し開け、ルートが中を覗き込む。
そこには、かぼちゃ頭の男がいた。
気配に気がついた、イディアと南瓜丸が、
ルートたちのいる入り口に向かい、微笑んだ。
「入っていらっしゃい。いま、おめでたい話をしていたのです」
イディアに言われるまま、メンバーは部屋に入った。

「この方…鉄観音南瓜丸さんは、近々この村でめでたいことがあるといわれて」
イディアが話し出す。
「そう、めでたいこと、それすなわち、ラミリアとノエルの結婚だ」
南瓜丸がびしっと決めポーズを決めながら言う。
「ささやかですけど、宴をしようと思います。南瓜丸さんの言うことが本当ならば」
イディアは何もかもお見通しの目で、いたずらっぽく笑う。
そして、
「ラミリアさんと、ノエル、結婚という話は本当なの?」
と、改めて問いかけた。
ノエルは、母にはかなわないと思いながら、
「はい、結婚をします」
と、答えた。

小さな村に、すぐに伝達がなされ、
もともと宴ごとに縁のない竜人の村は、
ちょっとした明るい騒ぎになった。
イディアの屋敷で、南瓜丸が牧師だか神父だかの真似事をして、
結婚式をしっかり挙げた。
それからは宴だ。
新郎新婦を巻き込んで、竜人とルートたちは大はしゃぎした。

そして、夜もふけたころ。
ラミリアは風に当たりに、屋敷から外に出た。
酒でほてった顔に、風が気持ちよい。
あとは、窮屈な花嫁衣裳をどうにかしたいと考えたが、
今日しか着られないし、そのままとした。
「ラミリア」
呼ぶ声がした。
振り向くと、そこには、ディーンがいた。
普段は、表情の薄いディーンが、少し温かみのある表情を浮かべている。
微笑みに近い。
「うらやましいものだな。何事も、自分に正直になれるということは」
ディーンはラミリアの隣にやってくる。
「覚えているか?ともに旅をした日々…」
ラミリアはうなずく。
ディーンはギター弾きになり、ラミリアは踊り子として、
各地の酒場を回った。
ディーンはリューンとジュリアを探して。
ラミリアは復讐相手を探して。
それでも二人には、それなりの信頼のようなものがあった。
信頼というより、同族かもしれない。
結果として、二人は炎神と死神の次の器だったわけであるが…
「お前がうらやましい」
ディーンがぽつりと言えば、
「そうでしょ」
と、ラミリアは、つやっぽく笑った。
「何があっても幸せになれる。お前の才能だな」
「ありがと。でも、あたしはもうノエルのものだから」
ディーンは苦笑いする。
「奪おうとは思わん。俺には…」
「わかってるってば。もう、魔族とかつらい過去とか、そういうのじゃないんでしょ?」
「かなわんな…」
ディーンが夜空を見上げる。
風の終わる場所のてっぺん、竜人の村、星が近くに見える気がする。
「すべてが終わったら、すべてを告白しようと思う」
「それでいいわよ。不器用なディーンらしくて」
「今は、お前の祝福をする」
「そのうちお返しできるといいわね」
「ああ…」
瞬く星星がちりばめられた夜空の下、昔の旅仲間は、静かに語り合った。

翌朝。
宴の片づけを終え、
ルートたちパーティーは、改めてイディアに会うこととなった。
ルートはなんとなく南瓜丸を探したが、
彼は夜のうちにどこかに行ってしまったらしい。
南瓜丸は、ルートの旅のところどころに出てくる。
ルートは、なんとなくであるが、気になった。
しかし、悪意はなさそうである。
最後のは、ルートの勘だ。

ルート、ディーン、ジュリア、クライル。
四人はイディアのいる奥の部屋にやってきた。
イディアは話し出す。
「では、改めて…あなたたちがすべきであろうことをお話しようと思います」
「はい」
「この世界の空に、天空城ラピュータがあります。それはお話しましたね」
「はい」
「あなたたちに、ドラゴンを一匹お貸ししましょう。天竜のゼロといいます」
「天竜…」
「しつけはちゃんとなっています。ゼロの背に乗り空へ。そして、聖地セフィロトの鍵を探しなさい」
「わかりました。ありがとうございます」

ルートたちは一礼して、イディアの元を辞した。

屋敷から外に出ると、
広場に青い竜が座っていた。
大きな翼を持った、西洋風の竜だ。
「…ゼロ?」
ルートが声をかける。
青い竜は、うなずいた。
「僕たちを背に乗せ、ラピュータまで。できるか?」
青い竜は、また、うなずいた。
ルートが手綱を取る。
皆が竜に乗り込む。
「空へ!」
ゼロは勢いよく上昇していった。


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