天空城ラピュータ


竜人の村から、上昇。
そして、いつしか、風の終わる場所が足元になった。
今、彼らは空にいる。

「世界が足元にある…」
ルートがつぶやく。
今まで旅をしてきた世界が、今、足元にある。
見上げていた空が、今、ここにある。

しばらくゼロに任せて空を行っていたが、
「あれか?」
と、ジュリアが前を指差した。
雲海の向こう、
明らかに人工の建物が見える。
「ゼロ、あれか?」
ルートがゼロにたずねると、
ゼロは少しだけうなずいた。
飛んでいるので、バランスを崩したくなかったのだろう。

建物は少しずつ近づいてきた。
それほど大きくないが、
小さな城程度の大きさは持っていた。
近づくにつれ、見たこともない、意味のわからない、
機械の城だということがわかった。
「この機械で空飛んでるのかな…」
ジュリアがつぶやいた。
機械は、ぎちぎちがしゃがしゃと音を上げている。
ゼロは天空城の外周の端っこに降りられる場所を探すと、
そこに着地した。

ルートたちは、天空城に入れる扉に向かっていった。
機械の管の張り巡らされた外を歩く。
そして、扉に手をかける。
扉は重い音を立てて開いた。
中が見えた。
中は、白で統一されていた。
白い壁、白い天井、白い人。
なにやら機械をいじくるらしいものも、白で統一されていた。
『ようこそ』
声が響いた。
『私は天空城ラピュータです。声を作り出して、あなたたちに話しかけています』
「ラピュータ?」
ルートが聞き返すと、
声は答えてくれた。
『はい、天空城とは、私自身です。意思を持った浮遊する城です』
ジュリアが間に入る。
「じゃあ、あの人たちは?」
『人ではありません。作業用の機械の人形です』
「そっか…」
『とにかく、長旅お疲れ様です。外の竜も休ませておきます。あなたたちは奥へ』
白い人形が、先にたって歩き出した。
ついてこいということだろうと、ルートたちはついていった。

奥の部屋は、そこそこ広く、白い椅子や白いテーブルなどが並んでいた。
白い人形は、彼らが部屋に入ると、どこかへ戻っていった。
おのおの腰掛けると、
ラピュータが声をかけてきた。
『この部屋に来るまでに、あなたたちの反応を見ました。神の力を継ぐ、器のようですね』
「そうらしい」
クライルが答えた。
「神の力をきちんと継がないことによって、この世界にあちこち異変が起き始めている。私はそう思うが」
クライルの推論に、ラピュータが答える。
『間違っていません。それでも、いくつか力は継がれましたね』
「ああ…そして、わたしたちは聖地セフィロトを目指している」
『聖地セフィロトのことは、竜人たちから聞きましたか?』
「はい」
ルートが答える。
「聖地セフィロトに行き、世界の根本から治せば…と、思わないでもないです」
『時神マルクトの眠るとされる地ですね』
「はい」
『そして、聖地セフィロトには、鍵がかけられていることも、知っていますね』
「はい」
『鍵は世界に散らばっています。一つはここ、ラピュータにあります』
「世界に…」
ルートが呆然とした。
『場所は大体つかめています。鍵は全部で4つ。手分けをしてみてはいかがでしょう』
「そうですね」
ルートは納得した。
「でも、竜もテレポストーンも1つだけだ」
ジュリアが指摘をする。
ルートはちょっと考えると、
「一人一つ取ってくるというのでどうでしょう」
「テレポストーンに場所を覚えさせるのも込みで、か」
「まぁ、そういうことです。ゼロにはちょっと往復の回数が多くなってしまいますが」
『天竜はそんなにやわではないですよ』
ラピュータから声が入る。
『それでは、大体の位置です。ファナ、ラクリマ、ルナーこのあたりとなっています』
ルートはちょっと考える。ラピュータの声がまた入る。
『先ほど、反応を見た際に、ラピュータの鍵を取れる方が限定されることがわかりました』
「限定?」
ルートが聞き返す。
『ルート・アマンド、あなたの反応、その反応でないと、ラピュータの鍵は取れません』
「そうですか…」
ルートは考えた。

「じゃあ、ファナのほうをジュリアさん、ラクリマのほうをクライルさん、ルナーのほうをディーンさん。僕がラピュータの鍵を探します」
『では、その順番で』
「はい」
「じゃ、まずはあたしからだね」
ジュリアが伸びをする。
「よっし!それじゃテレポストーン貸してくれ。ファナの近くも回ってくるわ」
「はい」
ジュリアはルートからテレポストーンを受け取った。

『では、ここから出る際にいくつか注意があります』
「注意?」
ジュリアが聞き返す。
『まずは、ファナのあたり。最近ドラゴン以外に空を飛んでいるものがあります』
「翼竜とか、鳥じゃないのか?」
『明らかに人工のものです。それが、アインスの地に飛んでいくのを確認しています』
「そっか…敵じゃないといいけどな」
『続いて、ラクリマのあたり』
クライルが視線をちょっと上げた。
『ラクリマのあたりには、現在、黒い魔力の渦ができています。かなり危険です』
「黒い?」
『何かを殺して得る類の魔力のようです』
ラピュータは分析する。
「では、ラシエル…あるいは、竜人の村で少し調べる必要があるな」
クライルは、自分に言い聞かせた。
『最後に、ルナーのあたり』
「何かあるのか?」
ディーンが答える。
『ルナーの近くに、鍵はあるはずですが、存在が曖昧です。何か鍵によくないことが起こったかもしれません』
「そうか…」

一通りラピュータの注意を聞くと、
ジュリアはさっさと部屋を出て行った。

一方そのころ…
世界のどこかで、憎しみが形になってきていた。
存在はある、しかし、形がない。
憎しみは、器を探していた。
憎しみを形にできる器を…


次へ

前へ

インデックスへ戻る