眠る男


ジュリアは、ゼロの背に乗り、ファナの近くを目指していた。
以前に世話になった、砂漠の盗賊のアジトの、上空も飛んだ。
「やつら、元気かなぁ…」
ジュリアはポツリとつぶやいた。
自分は風神になってしまった。
ジュリアはそうも思う。
何が変わったとは説明がつかないが、
異変だの神様だの、それらが全部終わったら、顔を見せに行こうかと思った。

ゼロは、ファナの近くに着陸した。
「よし、じゃ、行ってくっから」
ゼロはおとなしくうなずいた。

ファナはごくごく一般的な、田舎の村だ。
そういえば、ルートやテル、イリスは、ここから来たんだと聞いた。
テルは、ディアンで大怪我をおった。
あれからだいぶ経つが、どうしているかは気になった。
怪我が治っているのか、もしこの村に戻っているなら、話もしたいと思った。
「まずは、情報収集」
ファナには、はじめて来たジュリアは、まずは酒場に向かった。

「ホド酒、置いてあるか?」
ジュリアは、酒場に向かい、酒を注文する。
ホド酒は、アージュでよく造られる、先代の風神ホドにささげる酒だ。
風味がいいので、アージュからあちこちに出回っている。
この酒場にも、ホド酒はあり、ジュリアはグラス一杯だけ、酒を飲んだ。
「ちょっと聞きたいことあるんだけど」
ジュリアがグラスを空にして、酒場の主に話しかける。
「テルって男、この村にいるか?」
酒場の主は、うなずいた。
「ちょっと前、大怪我をして…それからファナに戻ってきて、今ではなにやら研究しているよ」
「どこでだ?」
「村の端っこの、ヴァーン研究所だよ。変なものがいろいろあるから、話の種にはいいんじゃないか?」
「ありがと」
ジュリアは酒代とチップを置いて、ヴァーン研究所を目指した。

「いきなり聖地への鍵って言っても、通じるやつもいないだろうしなぁ…」
などとつぶやきつつ、ジュリアは村の広場を通って、
ヴァーン研究所を目指す。
ふと、広場を通るとき、黒い悪寒が、一瞬だけ走った。
(なにか…ここであったのか?)
アージュの昔あった風に似た感覚。
15年前の魔狩りのころ…。
ジュリアは頭を振った。
あまり、思い出して気持ちのいいものではない。

ヴァーン研究所は、珍妙なガラクタが寄せ集められた研究所だ。
もっと洗練すれば、ラピュータみたいになるかもしれないとジュリアは思った。
とりあえず扉を探し出し、ノックする。
「はーい」
聞き覚えのある声がする。
そして、ドアが開く。
見覚えのある幼い顔。
明るい茶色の髪、同じ色の瞳。
テルだ。
「よぉ」
ジュリアは片手をあげて軽く挨拶する。
テルは破顔したが、すぐ、
「お久しぶりです…けど、今、ちょっといろいろ大変なんです」
と、奥へ引っ込もうとした。
「何が大変なんだ?」
ジュリアが声をかけると、
テルは振り向いて一言言った。
「ナンセンスなのです」

結局、ジュリアは、テルについていき、
ヴァーン研究所に入っていった。
とりとめもない話をする。
「…怪我、完治したのか?」
「ええ…おかげさまで」
「最近は何してるんだ?」
「空を飛ぶ箱舟…その研究ですね」
ジュリアは、なるほど、ラピュータで聞いた空飛ぶものはこいつのか、と、思った。
「飛べるのか?それ」
「はい、ファナからアインスの地まで行きました。そこで…」
「そこで?」
「大怪我をしたフェンダーさんを拾い、現在ナンセンスなのです」
「フェンダーって、あの、熊?」
「はい、ディアンのフェンダーさんです」
「なんでまた」
「どうしてそこにいたかは、旅にでも出ていたで説明がつきます、ナンセンスなのは…」
テルは扉を開けた。
そこには眠る男がいた。
テルの父親であるエレキ博士が、珍妙な機械をいじりつつ、
眠る男のそばにいた。
眠る男は…フェンダーだ。

エレキ博士とテルの言うことには、
テルの大怪我が完治して、ディアンから戻ってきて、
プロトタイプの空飛ぶ箱舟が完成した際、
アインスの地と呼ばれる場所で、エネルギーの大きな反応があった。
プロト箱舟は、アインスの地まで飛び、焼け野原からフェンダーを拾った。
フェンダーの傷は徐々に薬などで治癒していったが…
「少し前から、特殊な反応が高く出ていること、そして何より、彼が目覚めない。それがナンセンスだ」
と、エレキ博士は締めくくった。

「特殊な反応って、そこの機械で測るのか?」
ジュリアがなんとなしに聞いてみる。
「ああ、最近テルにも見られる反応値でな。目下研究中だ」
ジュリアの中で、何かひらめいた。
「おっさん、あたしもちょっと測ってくれ!」
エレキは面食らったが、ジュリアも計測することにした。
すると、
ピー!ピー!
甲高い音を立てて、反応値が跳ね上がった。
「これは…」
「やっぱり」
ジュリアは納得した。
「おっさん、テル、この反応は、神様の力とやらだよ」
「神…?」
「説明すれば長くなる。ちょっと、信じられないかもしれないが、聞いてくれ」

ジュリアは、ヴァーン親子に説明を始めた。


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