心の鏡


ジュリアは、わかる限り、一つ一つ説明をした。
まず、探していた異変の原因は、
神の力が、ちゃんと継がれていないことによって引き起こされるもの。
神はぱっと見、人の姿をしており、
力を発揮しないと人と見分けはつきにくい。
ジュリアは、風神の力を継ぎ、現在風神である。
なおかつ、風の終わる場所という島で、地神と会った。
地神ネツァは、次の器として、フェンダーと言っていた。
目覚めないと、世界のバランスが悪くなるかもしれない。
そして、その機械が、フェンダーとジュリアから反応値を高くとるのなら、
その機械は、神の力を計測する機械になっているだろう。
テルが反応している理由は、わからない。
そう、ジュリアはまとめた。

「でも、熊が神の次の器と仮定して、目覚めないのは何でだろうね」
ジュリアがため息をつく。
「あの…」
テルがおずおずと話し出す。
「ナンセンスかもしれませんが…」
「神様が云々言ってる時点で十分こっちも変だよ。で、何?」
「ええと、フェンダーさんが目覚めない要因、それは心にあると思います」
「どうしてまた」
「ナンセンスかもしれませんが…」
「それはもういいよ」
「ええと…時折見えるんです。何か、フェンダーさんに取り付いているものが…」
「心に取り付いたものか…」
ジュリアは少し考える。
「とりあえず、鍵は後回しだな。フェンダーをちょいと叩き起こさないと。神様が寝てちゃ洒落にならない」
ジュリアが言った後、
「鍵?」
と、テルが聞き返した。
「そう、鍵。異変をおさめに聖地セフィロトに行く。そのためには4つ鍵が必要で、その1つがファナ辺りにあるんだと」
「なるほど…」
テルは納得をした。
「聖地への鍵については、私が調べておこう」
エレキ博士が申し出る。
「ありがたいね。さて、こっちは熊の心に取り付いたものを、どうにかしなくちゃいけないわけだ」
「あてはあるんですか?」
「心に取り付いたものってんなら、アージュのアントスおじさんの家に、心の鏡って鏡があったはず」
「それはどういうものですか?」
「心を映し出す…心が強ければ、心の中にもぐってみることも可能だそうだ」
「ナンセンスな…」
「いまさらだよ」
ジュリアは、からから笑った。
「それで、テルはどうするんだ?あたしはアージュに向かうけど」
「ついていきます。できれば、フェンダーさんの目覚ましにも一役買いたいです」
「そっか」
「それに…」
「それに?」
「僕自身、反応値が上がったことが気になります。しばらくご一緒しようかと思います」
「わかった」

ジュリアとテルは、
ファナのはずれで待っているゼロに乗り込み、
空を経由して、アージュに向かった。
テルは空飛ぶ箱舟などで空には、慣れているのか、
気持ちよさそうにドラゴンの背にいた。

しばらく北へと飛び、
少し空気が冷えてくる。
足元にかすかにディアンが見える。
アージュはその北西だ。
ゼロは道をたがえない。

ゼロはアージュの近くに着陸した。
ジュリアとテルはゼロの背から飛び降り、
「あたしだけじゃないんだ。これからみんなも背に乗せる。あんまり無理するなよ、ゼロ」
ジュリアはそういって、ゼロをねぎらった。
そして、テルとともにアージュへと向かっていった。

ジュリアは、アージュに入ると、
まっすぐアントスのもとに向かった。
アントスはいつものように庭弄りをしていた。
「アントスおじさん」
ジュリアが声をかける。
アントスは気がつき、
ジュリアが明るい表情なので、うれしそうに笑う。
「今日はなにか?」
「ここに、心の鏡ってあった気がして。必要なんだ」
アントスは記憶を辿り、
「倉庫にかけてある、緑色のふちの鏡だよ。取り扱いには注意するんだよ」
「注意?」
「心の化け物…ミラーノイズと呼ばれるものがいると、噂で聞いた。出会ったら倒さないと、心から出られなくなる」
「わかった、ありがとう、アントスおじさん」
ジュリアは礼を言うと、テルとともに倉庫に向かった。

倉庫に、鏡は、埃まみれで転がっていた。
右と左の手のひらを、横に合わせたくらいの大きさの、丸い鏡だ。
「さて、これで心の中に入れるはず。うまくいけばだけどね」
「フェンダーさんの心の中って、どうなってるんでしょう」
「さぁな…けど、ミラーノイズってやつが気にかかる」
「フェンダーさんは、それに取り付かれて?」
「かもな。さて、ファナに戻るか。テレポストーンとゼロ、どっちにすっかな」
ジュリアは結局、
ゼロにテレポストーンの存在を教え、
テレポストーンでテレポートする際は、できるだけついてくるようにと教え、テレポストーンでファナに戻った。
ゼロは悠々と飛んでついていった。
どちらかといえば、ゼロは賢い犬に近いのかもしれない。

フェンダーは眠っている。
眠りの表情から、彼がどんな夢を見ているのかはわからなかった。


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