月神ビナ


ジュリア、テル、フェンダーは、
ファナの村の教会にやってきた。
「ここの、外あたりか」
ジュリアがあたりを見回す。
「僕もずいぶんファナの村に住んでいますけど、鍵なんて知りませんでしたよ」
「隠されてりゃ、わからないだろうって」
そう、ジュリアは言い、
ジュリアとフェンダーは、とりあえず教会の外周を回り始めた。
テルもついていこうとして、
ふっと、自分の中で何かがよぎった気がした。

ドクン

大きく何かが、脈打つような感覚。
近いと思った。
教会の入り口近く、
脈打つような感覚がする。
テルの内側に、鼓動とは違う何か。
テルはうずくまった。

フェンダーが、テルのいないことに気がついて戻ってきた。
「おい、大丈夫か?」
フェンダーはテルを起こすと、
テルは頭を振って、
「何か…感じたんです」
とだけ言った。
ジュリアも戻ってくる。
「鏡の中からの影響か?」
ジュリアが言えば、テルはやんわり否定する。
「さっきは大丈夫だったんです。教会の近くに来たら…何かが」
ジュリアは教会の入り口付近を見る。
教会の普通の入り口、普通の扉、普通の植え込み。
しかし、ちりちりと、何かを感じる。
「やっぱ、なにかいるのか?」
フェンダーがジュリアに問いかける。
ジュリアはうなずいた。
「入り口付近、探すぞ」
「探すったって…何しろってんだよ。入り口以外何もないぞ」
フェンダーが問うと、
ジュリアは、ぶつぶつとつぶやき、
「こうするんだよ!ビッグトルネード!」
と、教会の入り口付近を、風の魔法で吹き飛ばした。
風神の力をきっちり継いでいることもあり、威力はかなりのものだ。
扉が吹っ飛び、植え込みは根こそぎ抜かれ、入り口は大破した。
教会の中では、イリスの父親が唖然としている。
「…すげぇ無茶する。お前…」
「手っ取り早いだろ」
ジュリアがにっと笑う。
そして、テルは感覚を頼りに、吹き飛ばされた入り口付近を歩き出した。

ドクン

何かが伝わってくる。

ドクン

どこだろう…

ドクン

テルは、吹き飛んだ植え込み付近で足を止めた。
「ここ…」
「よし、じゃその辺を…」
ジュリアがまた、魔法の詠唱をしようとする。
それをフェンダーが止めた。
「そこってわかってるなら、吹き飛ばすこともないだろ。待ってろ」
フェンダーは右手をぐるぐる回すと、
「うりゃぁあ!」
と、地面に向けて正拳突きをした。
派手な音をして、植え込みの下で何かが砕け、ぽっかりと穴が開いた。
日の光が少し差し込み、穴の下は、階段だということがわかる。
「この下から…か」
ジュリアの言葉に、テルはうなずいた。

三人は、ぽっかり開いた階段を降りていった。
テルが時々立ち止まる。
身体の中の何かと、反応しているようだ。
少し苦しそうに、身体を押さえる。
フェンダーがテルを支え、
ジュリアが先にたって歩いた。

やがて、暗い階段の終わりが来た。
そこは、ジュリアからすれば、ラピュータの外観を思い出させた。
「機械…」
ジュリアはつぶやいた。
そこは機械のひしめきあった部屋。
チューブ、配線、何かを計る機械、よくわからない基盤、その他もろもろごちゃごちゃしたもの、
…ズズッ…
と、時々どこからか雑音が入る。
テルは機械の部屋の、ずっと奥に目をやった。
「…あなたは…」
テルは支えてくれているフェンダーの手を離れ、奥へと足を進めた。
奥の壁に張り付くようにして、女性の身体を模した、機械があった。

…ザザ…ピー…ピー…

部屋の中の、計器が何か反応をする。

『ホド…ネツァ…それから…ビナ?わたし?』

部屋のあちこちから、雑音に途切れ途切れの声がする。
女性の声のようだ。
テルは、なんとなくわかりかけていた。
ルートのような勘ではなく、近いが、自分がこういった反応をする以上において求められる、その答えを。
そのまま、奥に歩を進め、
一番奥にいる、女性の姿をしたそれに、話しかけた。
「僕は、あなたではありません」
『わたし…ではない』
「僕はテル。はじめまして、月神ビナ」
『わたしは、ビナ、型式番号M−667…』
「あなたは、月神ビナです」
『わたしは…』
「守っているんですね、聖地への鍵を」
『聖地、への、鍵』
「渡してください」
『あの鍵は、コクマから預かった、大切な、鍵』
「渡してください」
テルは再度、彼女…という機械に頼む。
彼女…月神ビナは、何か反応を起こした。
雑音が大きくなり、
突然、雑音がなくなってクリアな音になる。

『聖地を汚すものを、抹消せよ』

はっきりした音声のあと、
多数の熱線が、テルを襲った。
テルは転がってかわす。
ジュリアとフェンダーは、臨戦態勢をとった。

(彼女を…ビナを…)
テルは考える。
(鍵から解放しなくちゃ…)

テルは決意し、また、ビナの元へ近づいていった。
一歩一歩、確実に。
ジュリアが名を呼んだ気がした。
テルは、歩みを止めなかった。

テルに、恐れはなかった。


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