機械の身体


テルはビナに歩み寄った。
何かが伝わってくる感覚がある。
テルは、テルなりに答えを出そうとした。
神の力をあらわす反応値が、高く出たこと、
そして、今、神が目の前にいて、そこから何かが伝わってくること。
テルは、何かが間違いないと思った。
何か、とは、まだちゃんと言葉に出来ないが、何か。

記憶らしい映像が、
テルの脳裏にフラッシュバックする。
(鍵を…守り続けるから…)
女性はそうして、身体を機械にしていった。
(ここに、鍵を隠すから…)
テルは思った。
ああ、この部屋の機械たちは、聖地への鍵を閉じ込めた、
仕掛けの箱みたいなものなんだと。
仕掛けを解けば、彼女は…機械の身体になってしまった彼女は…
きっと解放される。

テルは伝わってくる記憶から、機械の部屋の仕掛けを頭の中で解く。
そして、振り向かず、ビナに対峙したまま、ジュリアとフェンダーに指示を出す。
「ジュリアさん!右側の赤く束になった配線を全部切り落としてください!」
ジュリアは、何かわかったのか、配線を短剣で絶つ。
「フェンダーさんは、左、青い板にいろいろくっついているのを板ごと壊してください!」
フェンダーは機械の山の中から青い基盤を探し、正拳で壊した。

ビナは、仕掛けが解かれていることに気がつく。
ジュリアも、フェンダーも、テルも、
彼らをすべてまとめて、
部屋の中の機械による、熱線や電撃で消去しようと試みる。
派手な音がして電撃が走ったり、
熱線があちこちに飛び交ったりする。
彼らは僅差でどうにかよけたり、
やはり動きにくい空間、足を取られて、やけどをしたりする。
それでも、テルは、ビナから流れてくる情報を高速で演算し、
そして、ビナの仕掛けを頭の中で解き、
ジュリアとフェンダーに、指示を出して、一つ一つ壊させていった。
テルはビナから目をそらさない。
ビナの機械の瞳に、なにか、悲しいような、そんな色が見えた気がした。

『渡さない…』

ビナが、何を渡さないか…
聖地への鍵なのか、それとも他のものなのか、
テルは判別しかねていた。

ジュリアとフェンダーは確実に仕掛けを壊し、
あたりには配線がむき出しの機械の部屋となっていた。
もう、計器はめちゃめちゃで、ノイズが常に入り、
あちこちからしゅうしゅうと蒸気でない煙が上がっている。
仕掛けは壊しているが、肝心の攻撃手段…
熱線や雷などの機械は、あまり壊していない。
テルが指示しないということは、壊すことで何か不具合があるのかもしれない。
ジュリアとフェンダーは攻撃よけつつ、
テルの行動を待った。

テルは、仕掛けの最後を解きにかかった。
それは、機械のビナをこの部屋からはずすこと。
『やめて!』
ノイズ交じりの音声が悲鳴を上げる。
『わたしをここから動かさないで!おねがい、わたし!』
「僕はあなたではありません」
テルは静かに言い、ビナを壁から引き剥がしにかかった。
『やめて!』
テルが力を入れる。
非力な彼だが、仕掛けはジュリアとフェンダーが壊してくれた。
あとは、ビナをここからはずすだけ…
テルのすべきことは、ビナを解放し…

「あなたの力を、継ぎます」

テルは、自分でつぶやいた言葉で、ようやく納得した。
ああ…月神の次の器は…
今までの反応は…そうだったのか、と。

『やめて!』
ビナが最後の力を振り絞って、
熱線を操る。
テルの二の腕がじゅっという音を立てて、かすかに焼ける。
テルは最後の力をこめ…
ビナは熱線の照準をあわせ…
熱線が放たれる。

その瞬間。

部屋の中で熱線などを避けていた、ジュリアもフェンダーも気がつかないその瞬間に、
男が一人たちあらわれた。
ぼんやりと陽炎のような現象だが、
姿は異国風のいでたちをしている。
彼は、テルに熱線が届くその前に、
熱線をその陽炎のような手におさめて消した。

「ビナ…」
異国風の彼は、そう、彼女に呼びかけた。
『コクマ…』
ビナが答える。
「もういい、よく、がんばった」
『コクマ…』
「その機械の身体になら、宿ることが出来る。ずっと一緒だ」
『ずっと…』
「さぁ、ビナ、鍵を渡そう」
陽炎のような男が、ビナの機械の身体に吸い込まれて消え、
テルはまた、力をこめた。
派手な音を立てて、ビナの機械の身体は、床に落ちた。
そして、ビナのいた、その壁には、
不思議な色合いのした鍵が、埋め込まれていた。

いつしか、機械の部屋は、静けさに包まれていた。

テルは、ビナの宿っている機械の身体を抱きしめた。
何かが、しっかり伝わった気がした。
空に浮かぶ城を作ったことや、
昔々、ここは機械の町だったこと…
そして、ビナを作り上げていた力とでも言うもの。
多分これが、月神のすべてなのだろうと、テルは思った。

ジュリアが鍵を手に取る。
鍵は不思議な色合いをしたまま、ジュリアの手に収まった。

「さぁ、鍵は手に入った。ラピュータに戻って、次のやつにバトンタッチだ」
ジュリアが声をかける。
「あの…」
テルがおずおずを声をかける。
どうしたというように、ジュリアがテルを見る。
「ビナさんも、ラピュータに連れて行ってもらえないでしょうか」
「そうだな、ここにいたままじゃ、かわいそうだな」

そして、フェンダーとジュリアで機械の身体を担ぎ上げ、
テルもついていくこととなり、
ゼロはラピュータへと飛んだ。

余談であるが、
吹き飛ばした教会の植え込み、扉などは、
エレキ博士がきっちり直したという。


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