指針


ゼロはクライルを乗せて、
竜人の村へやってきた。
ゆっくりと着地し、羽をたたむ。
ゆったりした時間の流れる竜人の村。
クライルは、村をぐるっと見回した。
何が変わったわけでもない。
あるものは農作業をし、あるものは家畜を追い、
牧歌的に、ゆったりと、ここの時間は流れている。

クライルは、イディアの家を目指した。
竜人の長たる彼女ならば、
さまざまの知識があろうと、ふんだからだ。

竜の首の真鍮の輪を使い、ノックする。
「はい」
中から声がする。
「クライルといいます。先だっては世話になりました」
ガチャリと扉が開く。
そこには、少し前にラミリアと結婚した、ノエルがいた。
麗人は相変わらず美しく、
微笑みながら、クライルを奥へと案内した。

「母様、クライルさんです」
ノエルが奥で何かを編んでいる、イディアに呼びかける。
イディアは気がつき、
編み物を横に置いた。
「どうぞこちらへ」
イディアは席をすすめた。
ノエルは、クライルを案内すると、どこかへ行った。

クライルは席につき、
「さまざま、聞きたいことがあり、ここに来ました」
と、まず、切り出した。
「聖地への鍵…そのことでしょうか?」
「はい」
イディアの言葉に、クライルは肯定した。
「ラピュータの情報によると、一つはラクリマにあると」
「ラクリマ…」
イディアの顔が曇った。
「ラクリマが、現在危険なことは、ラピュータからも聞いています」
「ならば話は早いですね。何らかの対抗処置…それを求めてきたのでしょう」
「はい」
クライルはまた、肯定した。
そこへ、物音が聞こえた。
「ラクリマ危険って、ほんと!?」
聞いたことのある声だ。
クライルが首を回し、部屋の入り口のほうを見ると、
そこにはラミリアがいた。
ラミリアはパタパタと二人に歩み寄り、
「ねぇ、ラクリマが危険って、ほんと?」
と、再度聞き返した。

「ラミリアさん、落ち着きなさい」
イディアが軽くたしなめる。
ラミリアは、しゅん、と、したが、
「やっぱり、チェスコのこととか心配なのよ…」
と、うつむき、ぽつりと言った。
そして、うつむいた顔を上げ、
「あたしもついていっていい?」
と、クライルに申し出た。
「あなたは炎神を継ぐ器。危険なことである以上、戦力はほしいところ…しかし」
クライルは言いよどむ。
「家族のこと、かな?」
ラミリアがたとえを出すと、クライルはうなずいた。
「必ず帰ってくるよ。大丈夫」
ラミリアは、明るく笑った。

「では…」
イディアが会話を再開させる。
「ラクリマは危険な状態、ラミリアさんとクライルさんが行く、以上はわかりましたね」
「はい」
クライルは簡潔に答える。
「対抗手段としては…ラシエルのどこかに、ソウルロッドと呼ばれる杖があるはずです」
「ラシエルのどこかに?」
「おそらく。その杖は昔魔物を杖に変えたもの、魔力は内に秘めています」
「内に魔力を秘めた…」
クライルは、相当する杖を考えているようだ。
「内に秘めた魔力を引き出せるのは、シリンの近くに住まうという、隠者が出来るといいます」
「隠者?」
そういえば、以前、ルートが剣の師匠がシリンの近くにいるといわなかっただろうか。
関係はあるのだろうか。
「剣の腕の達者な隠者です。昔、魔物を杖に変えたのも、その隠者という話があります」
「剣と…魔力ですね」
「おそらくは。まずは、ソウルロッドを手に入れること、そして、隠者に会うこと」
「そうすれば、ラクリマの魔力にも対抗できると?」
「黒い魔力の渦から守っては、くれるでしょう。元凶をどうにかできるかは、あなたたちしだいです」
「なるほど…助言、感謝します」
クライルは席を立った。
一礼して、イディアの元を辞した。

クライルに、ラミリアがついてくる。
「とりあえずは、杖と隠者と、それでラクリマ?」
「まとめれば、そういうことだな」
「じゃあ、家族にいってきますだけ言ってくるね」
ラミリアはパタパタと、イディアの屋敷のどこかへ行った。
クライルは、しばらくそこで待っていた。
かすかに、泣き声らしいものが聞こえる。
思うに、少年の泣き声か何かだろう。
かすかに、ノエルがラミリアを送り出す声がする。
そして、また、パタパタとラミリアはやってきた。
「おまたせ。さ、行きましょ」
「いいのか?」
「今生の別れじゃないもの」
ラミリアは笑っていたが、目のふちが少し赤かった。
赤い目の所為だ、と、クライルは無理に思うことにした。

イディアの屋敷を辞し、
クライルとラミリアは、とりあえずはゼロに乗ったことのないというラミリアを、ゼロに乗せ、
一路ラシエルに向かった。


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