ゼロはラシエル近くに着陸した。
「お疲れ様、ゼロちゃん」
ラミリアがねぎらった。
ゼロは竜らしい甘えた声を出した。
大きな竜なので、甘えた声も人によっては怖くも聞こえるが、
ラミリアは、ちゃんとわかったようだ。
「よしよし」
と、ゼロの頭をなでた。

クライルとラミリアは、
ラシエルへやってきた。
ラシエルは、以前魔物が攻めてきた際の修繕も終わり、
いたって普通に機能していた。
クライルは、感慨深くラシエルを見回す。
「すべてが終わったら、また、ここに戻らねばな」
「そうよ。お互い戻る場所があるんだからね」
会話をしていたところに、
誰かがクライルに気がついた。
水を思わせる、清純なイメージの女性だ。
女性は、屈強な男性とともにいる。
男性は、地を思わせた。
二人がクライルに近づいてくる。
クライルは、女性に見覚えがあった。
といっても、夢の中の話だ。
ガラスの鳥を飛ばした女性だ。

女性はクライルの前まで来て、微笑んだ。
「…はじめまして、かしら」
「そうですね、はじめまして」
クライルはなんとなくわかった。
この女性は…
「私は、先代の水神ケセド、こちらは、先代の地神ネツァです」
ネツァが軽く会釈した。
クライルは、なんとなくわかっていた。
感覚が似ているのだ。
自分と、先代の水神ケセドとは。
自分でないのに自分であるような。
不思議な感覚がした。
「まだ、終わっていないのね。神様の力の混乱は」
「多分、まだ」
クライルは答える。
そして、
「ソウルロッドというものを探しに来ました。魔力を内に秘めた杖であると聞いています」
ケセドは少し、考えた。
「ラシエルにある杖は、ほとんど、護身用に魔力を注いでいるもの。魔力がにじんでいる状態ね」
「そうですね」
「内に秘めているのは…おそらく、あれじゃないかしら」
「あれ、とは?」
「王様の部屋の、地下室への仕掛け。杖があったでしょう」
クライルは思い出す。確かに、飾りのような杖があった気がする。
「なるほど…あれか」
「クライル、わかったの?」
ラミリアが、横から口を挟む。
「ああ…ケセド様、助言、感謝します」
「様はつけなくていいわ。神様じゃないもの」
と、ケセドは笑った。
神の力を持っていなくても、
水を思わせる、すがすがしい笑みだった。
「それにね…」
ケセドがもののついでのように話す。
「神様であろうがなかろうが、伝えられるってことがわかったもの」
クライルは、不思議そうにその言葉を聞く。
「大切なのは、神様の力じゃない、思い、なんだって…みんなが気がつかせてくれた」
みんな、とは、誰をさすのか、クライルにはわからなかった。
「思いを伝えるなら、心のままに。それが一番大事よ」
ケセドはそれだけ伝え、ネツァとともに、ラシエルのどこかへ行った。
クライルは見送り、
王の自室…クライルの部屋へと向かった。

自室に行くまでに、大臣格が何人もすれ違った。
びっくりしたり、戻ってきてくれと頼むものもいた。
その一人一人に、
「いずれまた戻ってくる、それまでを頼む」
と、クライルは告げていった。

クライルは、ようやく自室にやってきた。
扉の中に入り、ふぅとため息をつく。
「慕われてるぅ」
ラミリアはふざけて言う。
「元はといえば、私が勝手にこの城を出たこともある。いずれは責任を取るさ」
クライルは微笑した。
そして、気を取り直して、部屋の中を見回す。
部屋の中は整頓されていて、
クライルが、いつ帰ってきてもいいようになっていた。
「地下室への杖…」
クライルは、仕掛けを持った杖を手に取る。
杖の解き方は、クライルしか知らない。
とある動かし方をすれば、地下室への階段が現れる。
地下室に何かを閉じ込めたと、言い伝えられてきたが…
まさか、この仕掛けの杖とは、と、クライルは思った。
魔力らしいものは感じないが、
仕掛けからはずした途端、一回だけ、鼓動のようなものを感じた。
「ソウルロッド…魔物の杖か」
なんとなくではあるが、一瞬だけそれを感じた気がした。

「何の変哲もない杖に見えるけどね」
ラミリアが覗き込む。
「まぁ、多分これだ。次はシリンだったな」
「ゼロに乗っていこ」
ラミリアはゼロが気に入ったようだ。
「一応、テレポストーンも覚えているはずだが?」
「ゼロがいいー」
ラミリアが駄々をこねるので、
結局、シリンへはゼロの背に乗って飛んでいくこととなった。


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