ひととき
ゼロはいつものように、
ラピュータの外側に着地した。
クライルとラミリアが降りる。
ラミリアは、まだ、泣きそうな顔をしている。
なんだかんだで、心の整理がついていないのだろう。
クライルは、ラピュータへの扉を開く。
白い空間がいつものように姿を現した。
『おかえりなさい』
ラピュータの音声が出迎える。
間があり、
『二番目の鍵を手に入れたようですね』
と、ラピュータが分析する。
クライルが、聖地への鍵を取り出し、
ラピュータはライトを当て、
反応を詳しく分析をする。
『間違いないようです』
と、ラピュータは簡潔に述べた。
「炎神の力を継いだものも連れてきた」
ラピュータは分析をしたらしい、
そして、
『間違いなく、炎神ですね』
と、判断し、
『皆さんが奥の部屋で待っています。どうぞ』
と、彼らをいつもの奥の部屋に行くように促した。
奥の部屋では、
ルート、ジュリア、ディーン、フェンダー、テルがいた。
クライルが扉を開け、奥の部屋に入っていくと、
フェンダーが立ち上がって、手を上げた。
クライルは、無言でハイタッチした。
「よくやったな、クライル」
「どうにか、な」
クライルは苦笑いした。
実際、ブラックの力や、チェスコの助言なしには、鍵は手に入らなかった。
だから、どうにか、だ。
「とりあえず、クライルは休め」
フェンダーに席を出され、クライルは席に座り、ラピュータの茶を飲んで一息ついた。
別のほうでは、
ジュリアとラミリアが盛り上がっていた。
「ラミリアは、どうしてここまで?」
「ん、クライルについてったんだけどさ…やっぱり、神様の力継いでるしさ」
「ふむふむ」
「世界がどうにかなるの、黙って見過ごせなくて…何かしたかったの」
「そっか、まぁ、お茶しかないけど、飲んで一息つくといいよ」
「ん、ありがとー」
ジュリアは茶を勧め、ラミリアは両手で茶の器を持った。
ゆらゆらと、茶のおもてにゆがんだラミリアがうつる。
「ゲブラもノエルも、元気かな…」
ラミリアの顔が泣きそうにゆがむ。
そのラミリアの背を、誰かが軽くたたいた。
ディーンだ。
「次の鍵は私が取りに行く。その際に手紙か言伝でもあれば伝えよう」
ディーンはそう告げると、
支度を始めた。
ラミリアは、間をおき、言葉の意味を捉えると、
「紙と書くもの!手紙書くから!竜人の村に!」
と、叫んだ。
ラピュータの部屋の箱から、モーター音をさせながら、紙と鉛筆が出される。
ディーンは振り向き、苦笑いすると、
「急がなくてもいい、乱文では出されたほうも困るだろう」
言われたラミリアは、言葉を無視して、
一心不乱に文章を走らせていた。
テルは、ラピュータの余った機械の部屋から持ってきた、
ガラクタと遊んでいた。
ルートは、そのガラクタを手に取り、
「これで何が出来るんだ?」
などとたずねた。
テルは、ふふん、と、得意げに笑うと、
「ラピュータの情報分析を、ちょっとのぞかせてもらいまして」
「はぁ?」
ルートは素っ頓狂な声を上げる。
「いやぁ、ナンセンスの打ち所もないほど、完璧なシステムといわざるを得ません、何せ、作られた時期は何百年も前の先代月神ビナの時期であるにもかかわらず、まったく持ってパーフェクト!僕はそのラピュータの情報分析を元に…」
「…元に?」
「聖地への鍵入れを作っているところですよ」
「鍵を?」
「鍵は特殊な構造、および魔力的なものが付加されていると推測されます。それを制御し、安全に保管できるように、ラピュータの情報分析を元に回路を構築し、鍵入れを作っているわけです」
「…はぁ」
「もうすぐ、月神と日神の入った機械が、ラピュータに接続されるはずです。そのときは、ビナの話も聞きたいものです」
そして、テルは鍵入れの作業に戻っていった。
ルートは、テルは相変わらずだと思った。
「ルート、ディーン」
クライルが思い出して声をかけた。
二人がクライルのほうを向く。
「シリンにいた、ブラックという隠者が、二人に来るように、と」
クライルは伝言を伝えた。
「ブラック…師匠」
ルートは感慨深げに、名前を反芻した。
「クライル、…ブラック、その人はイェソドの力を持っていませんでしたか?」
クライルはうなずく。
「イェソドが封じたという、ソウルロッドの力を解放することができた。おそらくはイェソドであるかと」
「やはり…」
ディーンは納得したようだ。
そして、ルートに告げる。
「ルート、聖地への鍵を手に入れることが先決と思う。しかし、ブラック師匠にも、鍵をそろえ次第行くぞ」
「はい」
ディーンは身支度を整えた。
「これ、竜人の村にお願い!」
ラミリアが、分厚い手紙をディーンに持たせる。
ディーンは苦笑いしながら受け取った。
クライルが、テレポストーンをディーンに持たせる。
そして、ディーンは奥の部屋を出て、
ラピュータの外周に向かった。
ゼロがいつでも飛び立てるように、羽ばたきをしていた。
「がんばりやだな」
ディーンがゼロの身体をぽんぽんとたたく。
「竜人の村へ、届け物がある。それから、鍵はルナーか…キリーク殿に調べてもらうか」
後半は独り言になりながら、
ディーンはゼロに乗り、手綱を握った。
「では、行くぞ」
ゼロは羽ばたいた。