壊れた鍵


ディーンは竜人の村に、まず、手紙を届けにいった。
ゼロを待たせて、いつもの家に行く。
ノックしたら現れた、ノエルに手紙を渡す。
ラミリアからだと告げて。
竜人の麗人は、手紙を受け取り、抱きしめると、
ディーンに礼を言った。

ディーンは再びゼロの背に乗り、
今度はルナーを目指した。
「さて、ルナーの闇の衣は空からは大丈夫なものだろうかな」
ずっと遠く、ルナーをいつも覆っている、闇の衣と呼ばれる夜がある。
相変わらず、一帯を包んでいるようだ。
ディーンは少し、思うところがあった。
「ゼロ、少しこの黒い空間の周りを飛んでくれ。低空飛行がいい」
ゼロは少し高度を下げた。
ディーンは闇の衣の周りを、回りながら、
ルナーに向けて、入り口が2つ出来たことを知った。
1つは今まであったエクスとの大橋がかけなおされたこと。
もう1つは、マリス方面に橋がかかっていること。
「なるほど、死人の巣窟を通らなくても、マリス側からルナーには入れるわけか」
ディーンは納得し、
「ありがとう、ゼロ。では、ルナーに向かおう」
と、ゼロを闇の衣に向かわせた。
闇の衣に触れ、通り抜けると、
何か…説明できない何かを抜けた不思議な感覚がして、
そして、そこは常夜の大地、ルナーだ。
足元には、ヒースの荒野が広がる、風の強い地。
その、ルナー城を目指した。

ルナー城の近く、ゼロを着地させる。
ルナー城の尖塔がいくつも突き刺さらんばかりに見える。
城壁のガーゴイルが、炎に照らされ、表情あるかのようにゆれている。
「夜は怖くないか?」
ディーンがゼロに声をかける。
「怖かったら、城の近くにいろ。今は少し休め」
ゼロは、のどを鳴らして城のそばに来て、
丸まって、くてんと休んだ。
門番が、何かというようにゼロを見た。
「私をはじめとするものたちの、大事な友人だ。少し休ませてやってくれ」
そして、ディーンは、
「ディーンだ!門を開け!」
と、宣言した。
門は重々しい音を立てて、開いた。

ディーンはルナー城に入っていった。
「お帰りなさいませ」
などと、城の住人が声をかけてくる。
人間の姿に近い、異形と呼ばれたもの。
彼らに、
「長らく留守にしてすまない。しかし、急ぎの用がある。今までどおり、頼む」
と、ディーンは頼み、
キリークを探した。

キリークは自室にいた。
そこは、占いの道具、魔術の研究用具、そして、古い本が雑多に置かれている、
ルナーのものでも怪しいと感じる部屋だ。
その部屋で、ディーンはキリークに調べものをしてもらっていた。
「聖地への鍵…」
「そう、ここルナーにあるが、鍵に何かあったらしいとは聞いた。詳細を調べてくれ」
「わかりました」
頭からすっぽりとねずみ色の布をかぶった、
ゴーストのキリークが答える。
長年その姿でいる所為か、性別も年齢も不明だ。
実体は希薄らしいが、
念力か何かのようなもので、本を読んだりは出来るらしい。
ディーンは、キリークの調べ物を待った。
キリークは念力でさまざまの文献を引っ張り出しては戻していく。
そして、
「ありました」
と、キリークがつぶやく。
「聖地への鍵は…かなり以前に、二つに壊れているようです」
「ルナーの、聖地への鍵がか?」
「はい。そして、ルナーの鍵は片方は『左の扉』へ、もう片方は、エクスにあり、と」
「『左の扉』…厄介だな」
「『左の扉』は開くたびに異世界をつなぐ扉…どの異世界に通じるかはわからず、それは心のあり方しだい、と」
「心のあり方か…」
「まずは、エクスの鍵をあたってみてはいかがでしょう」
「うむ」
「文献をあさる限り、鍵自体に魔力が備わっており、修復は困難ではない、かと思われます」
「ならば、問題は『左の扉』か…」
「エクスの鍵も、何か無きにしも非ず。気をつけて」
「うむ」

ディーンは、ルナー城を出た。
外では、ゼロが眠っている。
夜がそれほど心地いいなら、と、ディーンは歩いていくことにした。
幸い、先ほどゼロと空から確認して、
エクスへの橋がかかっていることがわかっている。
「さて、行くか」
ディーンはヒースの荒野を抜け、
闇の衣の端っこから、
エクスへの大橋へとやってきた。
大橋の途中から、闇の衣が途切れ、風景は夕焼けへと変わった。
「そんな時間か…」
ディーンは、闇の衣の外が完全に夜になる前に、
エクスの町を目指した。
エクスには、ジャクロウがいるはず。
彼が目覚めているなら、何か話が聞けるかもしれないと思った。


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