日の昇る理由


ディーンはエクスの町を目指した。
エクスへの大橋を渡り、遠くにエクスの町が見える。
エクスの町は、シーアンに壊されたあの頃から、
徐々に復旧しているようだ。
活気が戻ってきていて、
壊された、エクスの東方風の建物も、
遠目から見て、いくつも直ってきているように見えた。

日が完全に沈む前に、
ディーンはエクスの町にたどり着いた。
灯りがぽつぽつと、ともりはじめ、
一番星が見え始める頃だ。

エクス風の建物が、いくつも並ぶ町の中、
ディーンは、交流のある、
タスク家を目指した。
タスク家はエクス日輪流の剣の使い手の家柄。
ジャクロウの血筋だ。
以前の日神コクマの力を、3分の1受け継いでいた器の血筋。
ルナーと交流をしている交渉役は、もっぱらタスク家だった。
しかしながら、ジャクロウは師範代を取ってからは旅に出ることが多く、
ディーンも、ルナーとエクスの交流は、城のものに任せていたこともあり、
ジャクロウと面識がそれほどあったわけではない。
「それが、死神と日神の次の器だったとはな…」
ディーンはつぶやき、
復旧された、タスク家の扉をたたいた。

「はい」
出迎えたのは、タスク家使いのコトマルだ。
タスク家使いと呼ばれる者は、
実は人外のものだ。
コトマルは、竜人の迷子であるところを拾われたらしい。
よく見れば、青い、爬虫類を思わせる耳が髪から見え隠れしている。
「ルナーのディーンだ。ジャクロウは、いるか?」
ディーンは告げる。
コトマルは、家の中をチラッと見ると、
「えーっと…」
と、言いよどむ。
カタリと音がして、奥から人が出てきた。
「ディーン様?」
出てきたのは、タスク家使いのアサキだ。
彼は、カラスか何かの羽を持ったものらしい。
普段は折りたたんでいるし、外見も普通の人間のようだが、
やはり、人外であることには変わりない。
「アサキか、ジャクロウに用事があって来たのだが」
アサキは答える。
「ジャクロウ様は、風穴の跡地に行ったものと思われます」
「そうか…動けるようにはなったのか」
「しばらくしたら、回復をしました」
「何よりだ。それで、風穴の跡地に行けば、いるのだな」
「おそらく」
「では、行くか」
ディーンがそこを離れようとしたとき、アサキが声をかけた。
「ジャクロウ様たちのお邪魔をなさらぬよう、お願いします」
ディーンはよくわからなかったが、邪魔とやらはしないようにと思った。

ディーンは、以前、ジュリアとレイシのとらわれた、
風穴の跡地へやってきた。
入り口は見る影もなく崩れている。
それでも、そこに、灯りがともっている。
邪魔をするなと言われたことを思い出し、
ディーンは気配を消して歩み寄った。
灯りの元、人影は二つあった。

「…いつまで、続ける気だ?」
ジャクロウの声。
「いつまでもと言ったら、とめるの?」
女の声だ。
「とめない」
ジャクロウの声は否定した。

「レイシが、いつまでもここでシーアンを弔い続けるなら、止めない」
「そう…」
「ただ、シーアンは戻ってこない」
「わかってる…」
ジャクロウが溜息をついたようだった。
「後悔しない事なんて、少ない。シーアンを殺さないこともできたんじゃないかと、思う」
「あなたは殺していない」
「…いや、日神の力が結果的に殺した…この力がな」
かすかな灯りの中、
二つの人影は語り合っている。
「俺は思う。後悔の念が、日をまた昇らせているんじゃないかと…」
「後悔が?」
レイシがたずね返す。
「そう、やり直したいという後悔が、同じように日を昇らせる。また、やり直せるように…」
「やりなおせないことも、ある…」
「後悔がある限り、日は昇り続け、また沈み、月は後悔を癒すようにめぐる…」
「つぎの日神は、変わったことを考えるのね」
「…最近思うようになっただけだ。そろそろ闇も深くなる。戻らないと足場が危ない」
「私の思いを知っていても、そうやって優しいの?」
レイシがたずねる。
「もともと知っていたから、シーアンを失ったことを後悔し続けるんだ」
ジャクロウは答えた。

レイシとジャクロウは風穴の跡地から離れていった。
ディーンは気配が完全に離れたことを確認し、
また、エクスの町へと戻っていった。
日は沈み、月がぽっかり浮かんでいた。


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