半分の鍵


ディーンはエクスの町に戻ってきた。
暖かい色の灯りがともり、
どうやらエクス地方の夕食時らしい、
独特のいい香りの香料のにおいがする。

ディーンは再び、タスク家を訪れた。
扉をノックをすると、今度は、シノが現れた。
「あ、入れ違いだったんだね。ジャクロウ様ー」
シノは勝気な女性だ。
聞くところによると、猫の力を持っているとか。
よく見れば、猫の目に見えないこともない瞳だが、
ディーンは、なんとなく、ジュリアの緑色の瞳の方がいいとか思っていた。

呼ばれて、ジャクロウが奥から出てきた。
眼帯もちゃんとしている。
装備も、以前の風変わりなものに戻った。
「よぉ。久しぶりだな」
「すっかり元気になったようだな」
「まぁな、いろいろなじんだみたいだ」
ジャクロウは、右手を閉じ、開く。
「まぁ、いろいろあった。それで、何の用件だ?」
「少し込み入る」
ディーンがそう言うと、
「なら、奥へ入れ。そこで聞いたほうがいい」
と、奥へと通された。

以前はシーアンに壊されていた家が、
どうもちゃんと直っているようだ。
それでも直ってから間がないのか、
素材のにおい…木のにおいや草のにおい、素朴な塗料のにおいもした。

「それで、込み入った話ってのは、なんだ」
ジャクロウが、話を振る。
「神々の力が云々…は、説明しなくても、嫌というほど、わかっているかと思う」
「まぁな」
ジャクロウが苦笑いした。
「それで、だ、世界の根本からどうにかしようと、聖地へと向かわんとしている」
「聖地…か」
「聖地への鍵は4つあり、うち、2つまでは手に入れた。私は3つ目担当だ」
「当番制か」
ジャクロウは笑ったらしい、
ディーンも苦笑いした。
「私たちは、空に浮かぶ機械の城、ラピュータを拠点にあちこち探し回っている次第だ」
「それで、エクスとどう関係がある?」
「ややこしくなるが、3つ目の鍵は壊れているらしい」
「聖地への鍵も壊れるのか?」
「2つへ分かれ、半分がエクスにあるという。これはキリーク殿の調べだ」
「そうか…」
ジャクロウは少し考え、
「思い当たる節がないわけでもない」
「あるのか?」
ジャクロウはうなずいた。
「風穴跡地へ行くぞ。暗くなって少し危ない。足元には注意しろ」
ジャクロウが席を立ち、
ディーンが後に続いた。

灯りを頼りに、
風穴跡地を目指す。
あたりはすっかり暗くなっていた。
「俺も確認したわけじゃないが…」
ジャクロウが歩きながら話し出す。
「シーアンは、生まれたとき、その手の中に何かの破片持っていたと聞く」
「破片?」
「シーアンの家系は術の家系だからな、並々ならぬ力があるとされ…シーアンの手に埋め込んだと聞く」
「埋め込んだ…か。それで、その破片が、聖地への鍵と?」
「思い当たるのはそのくらいだ」
男二人はそれから黙々と歩き、
風穴跡にやってきた。

跡地とはいえ、
風穴の範囲は広く、シーアンの手に埋め込まれたものも、掘り出すのは容易ではないとディーンは考えた。
「掘り出すわけじゃない」
ジャクロウは、ディーンの考えを読んだように言うと、
灯りをディーンに持たせ、
ジャクロウは、その場で集中した。
ジャクロウから、陽炎のように風景がぼやける。
ぼやけた風景は広がり、
ディーンとジャクロウと、風穴跡地を包む。
ぼやけた風景の中、ぼやけた人影が浮かび上がった。
ぼやけた人影は、ジャクロウに近づくと、
何かをジャクロウに託し、何か言葉を言うような動作をして、
そして、ぼやけたまま消えた。

「…ふぅ」
ジャクロウが溜息をつくと、そこは先ほどの風穴跡地に戻っていた。
「シーアンが、やっぱり持っていたらしい」
ジャクロウが手を開く。
そこには、不思議な色合いをした破片があった。
「色合いから聖地への鍵かと思うが…」
「そうか、よかった」
そう言い、ジャクロウは戻ろうとする。
「いったい、何をした」
「…レイシが、いつもここでシーアンと交信している。日神の力を使えば、渡してもらえるかと思った」
「日神の力…」
「交信だけじゃなかったのが、厄介だったがな」
ジャクロウは笑った。
「シーアンは何と言っていた」
ディーンが尋ねると、
ジャクロウは、
「さぁ、なんのことだ?」
と、とぼけた。

帰り道、
ジャクロウが灯りを持って前を歩く。
「これから、お前はどうする?」
ディーンが尋ねる。
「これから?」
「私は聖地に赴き、出来れば世界の異変をどうにかしたいと思う」
「どうしてだ?」
「死神の力を継いだ以上、死が混乱するのはいやだ。そのくらいしか言葉に出来る理由は思いつかない」
「そうか…お前も器だったんだな…」
ジャクロウはつぶやき、
しばらくもくもくと歩く。
そして唐突に、
「俺も、聖地へといけるだろうか」
と、ディーンに尋ねてきた。
「…何があるかはわからない」
「それでも、エクスにいるよりはいい」
灯りを持ったまま、振り向かずにジャクロウは続ける。
「…頼む、と、言われたからな」
誰に、とは、ディーンは聞かなかった。

ディーンはタスク家に泊まることとなり、
翌日、朝日が昇る前、
ルナーへ向けてジャクロウとともに出発した。


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