左の扉
ディーンとジャクロウは、
大橋をわたり、ヒースの丘を越え、ルナーへと戻ってきた。
いつものように、重々しい門が開かれる。
ディーンは真っ先にキリークの元へとやってきた。
ジャクロウが後ろからついてくる。
キリークの部屋の扉を開け、
ねずみ色のローブのキリークが、どうやらディーンに気がつき、
そして、ディーンが差し出した、鍵の破片を念力で見たらしい。
「この魔力…細かいことは他の書物で調べますが、おそらくは鍵の半分」
「そして残りは『左の扉』…か」
ディーンが確認する。
キリークは肯定のような動きをした。
「『左の扉』に行く。開けるか?」
「心持しだいで、いつでも」
「わかった。鍵の半分がそろい次第、直してもらうことになる。そのときは頼む」
ディーンはキリークに言い残し、
ジャクロウを先導する形で、『左の扉』に向かった。
「『左の扉』?」
ジャクロウがたずねる。
「異世界に通じている扉だ。どこに通じるかは心しだいだ」
「右もあるのか?」
「『右の扉』というものもある。こちらは太古のモンスターを封じたとされている」
「ルナーもいろいろだな」
「まったくだ」
カツカツと歩き、やがて、彼らは『左の扉』の前にやってきた。
いたって普通の扉だ。
…頑丈に錠前を施されていること以外は。
影のような異形のものが、門番のようにそこにいる。
「キリーク殿から通達は来ているか?」
門番はうなずいた。
ディーンは振り返る。
「引き返すなら今だぞ」
ジャクロウは笑った。
「心中はごめんだが、何もしないのはもっとごめんだ」
「…上等だな」
意思を確認し、
「2名、『左の扉』に入る。錠をはずしてくれ」
ディーンは門番に命ずる。
影のような門番は、ガチャリガチャリと重い音を立てて、錠前をはずした。
ディーンは半分の鍵を思い、扉に手をかける。
と、扉に吸い込まれるような感覚。
かなり強い。
「おい、ディーン!」
扉に半分吸い込まれ、体制を崩したディーンの手をジャクロウがつかむが…
そのまま二人は扉に吸い込まれていった。
影のような門番は、
二人が扉に吸い込まれ、
静かになったことを確認すると、
また、同じように施錠をした。
あたたかい中で、ディーンは目を覚ました。
どこか安心できる空間だ。
見回すと、近くにジャクロウも倒れている。
ディーンは動き出そうとした。
どこか、違和感。
水の中にいるような感覚だ。
ディーンはとりあえずジャクロウを起こした。
「…水の中?息が出来る」
「ここはそういうところらしい」
ディーンはあたりを見回す。
「とりあえずは、いきなり死にいたるような世界でなかっただけ、よしとするか」
「鍵の半分だったよな」
「うむ、この世界にあればいいのだが」
ディーンとジャクロウは、息の出来る水の中を歩き出した。
『だれ』
声が響く。
空気と違って、かなり大きいようだ。
『ぼくのせかいにやってきたのはだれ』
察するに、声はこの世界の主らしい。
ディーンは答える。
「鍵の破片があるかと思い、やってきた。もしあるのならば譲ってもらいたい」
『はへん。きらきら』
世界の主は、何かを伝えようとして、
『そのまま、きて』
と、彼らに命じた。
少し進むそこに、
ディーンは鍵の破片が浮かんでいるのを見た。
『それ、あげる』
ディーンは鍵の破片を手に取った。
『うまれるから、いらないの。それはあげる』
「うまれる?」
『おぼえていたら、また、あるくんだ』
「何を言っているんだ?」
『きみたちは、みずのところにおくってあげる』
急に、異世界を包んでいたあたたかい水が動き出した。
「おい!流されるぞ!」
「水のところに送るって、この世界は…!」
『ばいばい』
声が響き、彼らは水に流されていった。
冷たい水の感覚で、目が覚めた。
頭から冷たい水が降ってきて、
足元には池になっている。
ディーンは見覚えがあった。
ここは、マリス城の噴水池だ。
どうやら、ここに送られてきたものらしい。
ジャクロウもひっくり返っている。
少し間をおき、ジャクロウは起き上がり、
派手にくしゃみをした。
ディーンは手を開いた。
そこには、異世界で手に入れた、鍵の破片があった。
異世界、あれは、なんだったのだろう。
生まれる前の世界だろうか。
『おぼえていたら、また、あるくんだ』
独り言のような異世界の主の言葉。
なんとなく、覚えていたら、それはそれでいいとディーンはおもった。
噴水池の管理人が来る前に、
彼らはマリス城の噴水池を出て、
テレポストーンでルナーに飛んだ。