酒席
ディーンとジャクロウは、
テレポストーンの力により、ルナー城の近くにやってきた。
相変わらずゼロは眠っている。
そういえば、と、ディーンは思う。
ゼロと一緒に空を経由して、ラピュータからルナーに来たこともあったが、
闇の衣は、それほど影響はなかった。
異形がいて、闇の衣に覆われ、忌み嫌われた地とされている、
そして、マリス方面からは、死人の巣窟からしか入れなかったこと、
区切りになっている河川に橋がかかっていなかったこと、
それだけだったのだろうかと、ディーンは思った。
それだけでも、異形とされたものの安息の地でありたい。
ルナー城の城主として、思った。
「開門!」
ディーンが宣言し、門は重々しい歯車と鎖の音を立てて開門した。
ディーンとジャクロウは、
キリークの部屋へと向かった。
廊下を歩くと、中庭からボールが転がってきた。
頬にも目のある少女が、ボールを追いかけてくる。
「あ、ディーン様」
少女は微笑んだ。
「まえに、またきてくれるって言った、おにいちゃんが、まだこないんです」
「どんな人だ?」
ディーンが尋ねる。
「むらさきいろのマント、むらさきいろと、はねのぼうし」
ディーンとジャクロウは、ミシェルであると確信した。
ディーンはうまい言葉を探す。
ジャクロウが割って入った。
「あいつがどこに行ったか、兄ちゃんたちも知らないんだ。あったら伝えとくよ」
「わかったー」
少女は中庭の遊びの輪に戻っていった。
ディーンとジャクロウは、キリークの部屋にやってきて、
キリークに鍵の半分を渡した。
「…間違いなく」
「直りそうか?」
「一刻をいただければ」
「頼む」
短く会話をし、ディーンはキリークに鍵を任せた。
キリークの邪魔をしないように、
ディーンとジャクロウは部屋を出る。
「城の食堂で一杯どうだ」
「エクス酒はあるか?」
「あるはずだ。ここの城でも愛好家はいる」
「じゃあ、少し飲むか」
意気投合すると、城の食堂へと向かった。
「あら、ディーン様」
腕の4本あるおばさんが、声をかけてくる。
「ホド酒ヒースフレーバー、それからエクス酒、つまみは任せる」
ディーンが注文をし、食堂の席につく。
ジャクロウもならう。
「あの腕の女性は、ここの食堂を取り仕切っている。腕は確かだ」
「確かそうな外見してるな」
異形の者たちがぽつぽつといる食堂、
食事時ではないが、
食事の、至って普通の食器の音が響く。
腕の多いおばさんが、その腕に、酒とつまみを持ってやってきた。
ディーンとジャクロウはお互いの酒を酌しあい、
「乾杯」
と、器が軽い音を立てた。
「鍵が直れば、私たちはラピュータに向かうこととなる」
ディーンが器を傾ける。
「ルナーでの鍵が3つ目といってたな、4つ目は?」
ジャクロウが問いかける。
「ルートが取りにいくこととなる。ラピュータの内部にあるらしい」
「そろえれば、聖地へ、か…」
「断っておくが…」
「何があるかはわからない、だろ」
ジャクロウがにやりと笑った。
「そうだ、エクスにやり残したことはないか?」
「さぁな…やれることはやってるつもりさ」
ジャクロウが酒の入った器をもてあそぶ。
「ディーン、お前こそ、心残りは作っておくなよ」
「…何のことだ」
「ジュリアにかかわると、お前は冷静でなくなる」
「…」
「まぁ、後悔しないようにな」
「考えておく」
一刻ほどゆっくり酒を飲み、
やがて、キリークの伝言が届いた。
出来上がったとのことらしいので、
ディーンとジャクロウは、キリークの元へ向かい、
そして、鍵を受け取った。
用事が済み、外に出ようと歩いていた際、
先ほどのボールの少女が、複雑な表情をしているのが目に留まった。
「どうした?」
「…ディーン様。きらわれちゃった…」
「きらわれた?」
「おにいちゃんきてくれた。けど、きれいなひとといっしょで、あたしのほうをむいてくれなかった」
「ミシェルが?」
「せかいをきれいにするんだって。そんなこといってたよ」
「そうか…もしかしたら、人違いかもしれん。あまり気に病むな」
「うん」
少女はそれでも、どこか悲しげだった。
ディーンとジャクロウはルナー城をあとにする。
ディーンがゼロをなでた。
ゼロは目を覚まし、羽ばたきをした。
「ゼロ、こいつも乗せて、ラピュータへ向かう」
ゼロはうなずいた。
「ゼロってのか。俺はジャクロウだ。よろしくな」
ジャクロウはゼロの頭をなでた。
ゼロはうれしそうにのどを鳴らした。
ディーンとジャクロウを乗せ、ゼロは大きく羽ばたき、
闇の衣を抜け、ラピュータへと向かった。