シャドウ


まだ明るいうちに、
ゼロはディーンとジャクロウを乗せ、
ラピュータへたどり着いた。
ゼロがラピュータの外周に着地し、
ディーンとジャクロウがゼロから飛び降りる。
ディーンは、ふと、振り返った。
そこには、空しか見えない、が、
何かが飛んで行った気がした。
あくまで、気がした。

「どうした?」
ジャクロウが、いぶかしげに問いかける。
「何かが飛んで行ったな…」
「ゼロのほかに何か飛ぶものでもあるのか?」
「ラピュータに分析を聞こう。行くぞ」
「ラピュータに分析って…おい」
よくわからないジャクロウを尻目に、ディーンはラピュータの入り口をくぐった。
ジャクロウも後からついていった。

『おかえりなさい』
ラピュータの音声だ。
「こいつは日神を継いだもの。分析結果を知りたい」
ラピュータが黙り、やがて、
『確かに、日神の力を継いでいるようです』
ジャクロウは眼帯を当てていない目で、きょとんとしている。
何がなんだかさっぱりなのだろう。
機械に詳しいテルとは違い、ジャクロウは機械とは無縁なのだ。
「それから、鍵の分析と、先ほど飛んでいったものの正体が知りたい」
ディーンは鍵を取り出し、
ラピュータはライトを当て、分析する。
『鍵は間違いなく聖地への鍵です。先ほど飛んでいったものとは?』
「ルナーの方角だ」
ラピュータが黙る。
そして、
『黒いドラゴンのようです。背に二人ほど人影。これ以上は拡大できませんでした』
「黒いドラゴン…向かった先はわかるか?」
『方角の分析を急ぎます。まずは、奥の部屋へ』
「わかった。行くぞ、ジャクロウ」
「おう」
ディーンとジャクロウは、奥の部屋へ向かった。

奥の部屋には、
ルート、テル、フェンダー、ジュリア、クライル、ラミリアがいた。
そこにディーンとジャクロウが加わる。
それでも奥の部屋は、まだ余裕があった。
「鍵入れ、完成しましたよ」
テルがうれしそうにディーンによってくる。
「さっきからそればっかりなんだ。こいつ」
ジュリアがうんざりしたように話す。
「まぁいいじゃないか。鍵、取ってきたんだろ。まずは入れろよ」
と、フェンダーが催促する。
ディーンは鍵を取り出し、
鍵入れの箱に収めた。
鍵入れの箱は不思議な色合いに輝き、やがて落ち着いた。
テルは反応に満足し、
「あとは、ルートが取ってくる、ラピュータ内の鍵ですね」
と、ルートのほうを見た。
ルートはため息をついて、
「何もないといいけどな…」
と、準備をし始めた。
愛剣は必要だろうか。
薬や道具は必要だろうかと、いろいろ物色する。
そこへ、ラピュータから音声が入った。
『黒いドラゴンの行き先がほぼ特定できました』
「わかったか」
ディーンが答える。
「黒いドラゴン…あー!あたしをさらったときに乗ってたあれか!」
ジュリアが大声を上げる。
クライルはピンときたらしい。
フェンダーはポカンとしている。
「…ルナーの軍勢がラシエルに攻めてきたことがあっただろう。その際の黒い竜かと思われる」
「ああ!」
クライルの説明に、フェンダーがぽんと手をたたく。
「いまさら黒いドラゴンがどうしたよ」
ジュリアがディーンに詰め寄る。
「ルナーから飛び立っていったと考えるのが妥当か…人影を二つ乗せて行ったらしい」
「人影二つ?誰と誰よ」
「わからん。ラピュータもそこまでは見えなかったという」
「あの黒い竜は、ゼロと違って二人が限界だからね…」
ジュリアが一人で納得する。
「シャドウという名の、はぐれ老竜だ。普段はルナーの闇の衣の中、翼竜たちとともに過ごしている」
「そのシャドウが飛び出していったの?誰だか乗っけて」
「おそらく。闇の衣は抜ける分には問題ないと、最近わかった」
「その前は?」
「闇の衣の境目、エクスへの大橋を助走して出撃して行った。どんな影響があるかわからなかったからな」
「ふーむー…」
ジュリアと、場にいたものは、その説明でなんとなく納得したらしい。
『では、シャドウの行き先です。おそらくは、名も無き火山島と思われます』
「火山島…」
ディーンが反芻する。
「ラピュータ、地図の表示をお願いします」
と、すっかりラピュータのシステムになじんだテルが言う。
真っ白な壁に、世界地図が投影される。
シャドウの目指す火山島は、南の孤島であるらしい。
「わかりました、ありがとう、ラピュータ」
地図は音も無く消えた。

「それじゃ、僕の番ですね」
ルートが身支度を整え終える。
「ラピュータ、僕はどこへ行けばいい」
『部屋を出ましたら、作業用ロボットがいます。ついていってください』
「わかった」
ルートは答え、部屋を出ようと扉に手をかける。
「どんなナンセンスがあるかもわかりません、慎重に」
と、テル。

ルートは振り向かず、片手をあげて応じた。

扉が開き、ルートを吸い込んで、閉じた。


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