コア


ルートは、扉の外に待機していた、
白い人形のような…作業用ロボットについていった。
モーターか何かみたいなもので動くらしい。
かすかな音を立てて、滑らかに白い床の上を滑って、ルートを誘導する。
ルートは、早くもなく遅くもないその速度についていき、
そして、作業用ロボットは螺旋回廊のような廊下を下へと進んでいき、
やがて、ある部屋までやってきた。
ルートたちの待機していた部屋から、位置的にはずっと下らしい。
そう、ルートは感じた。

白い扉が一つある。
そっけない、扉だ。
『ルート、あなたがここに入れます』
ルートは扉に手をかけた。
一瞬にして、何かが身体を駆け巡った気がした。
そして、扉が開く。
『あなたの身体が鍵となりました。扉の中へ』
ルートは、扉の中へと入っていった。

そこには、白く輝く、直径が人間ほどの球体があった。
さまざまの線や機械がつないである。
ちかくに、輝いていない同じような球体もある。
ルートは、それらの意味はわからなかった。
ラピュータが説明する。
『これが、ラピュータのコアです。このコアを通して、私は動いています』
「コア…」
『最後の聖地への鍵は、このコアの中にあります』
「その中に?」
『ルート、あなたはコアと共鳴できるもの。その資質を持っています』
「僕が…どうして?」
『資質があるからとしか、わかりません』
ラピュータは、らしからぬ答えを返した。
『しばらくコアを止め、サブ・コアを起動します』
輝いていない球体のほうに、にわかに輝きがともる。
『ルート、あなたはコアと共鳴し、コアの中へ』
「コアと共鳴?」
『触れ、鼓動をあわせるように』
「…やってみる」

ルートは、輝きを落とした、コアに触れる。
かすかに鼓動のようなものを感じた。
深呼吸して。呼吸を整え、
時計の針を合わせるようなイメージで、
呼吸を、鼓動を合わせるようにしてみた。
秒針や短針長針、めぐりめぐって、重なるイメージ。

瞬間、白い輝きがあふれ、
輝きがなくなると、
ルートはその場から掻き消えていた。

『…行きましたか』
ラピュータがつぶやいた。

ルートは、空間にいた。
明るいとも暗いともわからない。
目を閉じても目を開けても同じだ。
動くのに抵抗は無いが、移動している感覚は無い。
身体というものが機能していないのかもしれない。
では、心が精神が、動いている?
そこに思い当たり、ルートは、なんとなく納得した。

さしあたって、この広いのか狭いのかわからない空間から、
聖地への鍵を探し出す。
そう、ルートは思った。
「なぜ、聖地へと向かう」
声がした。
「お前はなぜ、聖地へと向かう」
聞いたことのあるような、無いような声だ。
「姿を見せればわかるか」
空間に、姿が現れた。
ミシェル…だが、額に何かの印がついている。
ルートはそう思った。
声も、ミシェルのものとは違うと思った。
「私はマーク、憎い憎いルート、お前はなぜ聖地へと向かう」
「マーク…」
「この世界がいかに小さく、世界を正しても無意味であることを、お前はわかっているはずだ」
「世界を正しても…無意味?」
ルートは、思わず聞き返した。
「そう、世界をいかに正そうが、そうだな…」
マークが指を鳴らす動きをした。
空間は、瞬時にして、群集を映し出す。
「ラクリマの民…これを正しいと思ったか?」
映し出された…ルートたちの周りに映し出された、群集は、
口々に、ケテル神をあがめ、
ルナーを滅ぼさんとしていた。
マークは再び指を鳴らす。
ラクリマの民は掻き消えた。
「正しいと思ったか?」
マークが問いかける。
「正しい正しくないは、歴史でいくらでも書き換えられます。己の信念に基づき行動した…」
ルートの言葉を、マークが途中でさえぎる。
「15年前のことも、お前はそれで片付けるのか?片付け、それでも世界を正そうとするのか?」
ルートが、何か思い出そうとして、
心が拒絶反応を起こす。
「15年前…」
「いかに人間が醜いか、いかに世界を正しても無駄か…15年前にわかっているはずだ」
マークが指を鳴らした。

そこは、機械の町。
広場がある。
教会がある。
「ファナ…」
ルートは知らず口走った。
ルートの記憶に全然無いファナだ。
ファナは村だ。小さな村のはずだ。
…その…はずだ。
「15年前のファナだ」
マークが風景を説明する。
ラクリマの聖なるものの証を持った多数の人間が見える。
ルートの心が激しく拒絶反応を示す。
「魔狩りだ」
ルートの目の前、閉じられていたルートの記憶が開かれる。


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