師弟対決


ブラックの動きは、
俊敏にして確実。
ダメージよりも、確実さを、
確実にしとめられる動きをしていた。
ディーンは何とかかわす。
かわせるだけ、自分が成長をしたのかもしれないが、
あるいは、まだ、ブラックは手加減をしているのかもしれない。

ブラックが距離をとった。
「師匠、変わらないですね」
ディーンが声をかける。
「確実にしとめるように。俺にも…ルートにも、そう教えたんですね」
「ああ…」
ブラックが肯定する。
「お前が死を与えられるか…確実にしとめられるか…俺はそれを試している」
ブラックが、剣を構えなおす。
ディーンも剣を構えなおした。
「いいか、死にたくなければ確実にしとめろ」
ブラックが踏み込み、駆け出す。
ディーンも一瞬遅く駆け出し、
剣が金属の音を立ててぶつかる。
ディーンは鍔迫り合いを望んだのではない。
防ぐのが精一杯だったのだ。
どこかを確実に切りに来る。
ディーンは肩と見た。
それを防いだ結果が鍔迫り合いになった。
ブラックは鍔迫り合いのまま、剣を持ったままの手で、ディーンを突き飛ばす。
ディーンはバランスを崩し、
瞬時にして体勢を立て直すが、
ブラックが迫ってくる。
(首!)
ディーンは瞬時に、ブラックの狙いが読めた。
首をついてくる。
それだけを。
速いブラックの動きを、ディーンはどうにかかわし、
ディーンは早口で呪文の詠唱を始めた。
ブラックは身を翻し、
再びディーンに上から切りかかる。
ディーンは、持っている剣で何とかブラックを防ぎ、
そのまま倒れた。
詠唱が終わる。
「コメット!」
ディーンが魔法を発動させる。
小石がいくつもいくつも、ブラックに襲いかかる。
ディーンはその場から転がり、
再び体勢を整えた。
そしてディーンは信じられないものを見た。

「コメットは使えるようになったか…」

そこには、無傷のブラックがいた。
ブラックが剣を振ると、
砂状になった小石が、ぱらぱらと落ちていった。
「この程度じゃ、しとめられない」
ブラックの言葉に、ディーンは覚悟を新たにした。
ブラックは無言で踏み込む。
間をつめ、
ディーンを切らんとする。
下段、胴体。
ディーンは手をひねり、ブラックの剣を防ぐ。
ぎちぎちと金属がすれる音がする。
ふっとブラックが力を抜いた。
予期せぬことに、ディーンの剣が浮く。
ブラックの剣はディーンの剣の下に回りこみ、
ディーンの剣を弾き飛ばした。
剣は軌道を描き、
近くの地に刺さった。
ブラックが、改めて剣を構える。
鋭い殺気が、刺さらんばかりだ。

ディーンは、ひらめいた。
早口で詠唱を始める。
詠唱をしつつ、剣のない構えをする。
ブラックの剣が襲いかかる。
ディーンは守る剣もないまま、
かろうじてかわしつつ、
詠唱を続け、
そして、
「コメット!」
と、魔法を発動させる。
「無駄だ!」
と、ブラックはさっきと同じように飛んでくる小石を剣で切る。
ディーンは転がり、
剣を拾う。
ブラックが小石を払うと、構え…

「クエーサー!」
ディーンは次の魔法を発動させた。
コメットは詠唱のための時間稼ぎだ。
本体は、より、消耗をするこっちだ。
このレベルの魔法を使えば、しばらく動けないほどだ。

大きな岩が、ブラックを襲う。
ブラックは、岩を両断していたが…
やがて、死角から襲ってきた、
岩に腕を打たれ、
ブラックは剣を落とした。

ディーンは、ブラックの首に剣を当てた。
気がつけば、お互い荒い息をしている。
ざぁ…と、草原が波を打った。
ブラックは、草原に胡坐をかいた。
「お前の勝ちだ」
ディーンはその言葉に、剣を収めた。
「…庵の中に、古代の魔物を封じた剣がある。リューンという」
「リューン…」
「俺の本当の愛剣だ。新しい死神よ。もっていきな」
「…ありがたく」

再び、ざぁ…と、草原が波を打った。

「お前は、リューンを探していたんだろう」
「そんな時期もありました」
「どうしてだ?」
ブラックの問いに、ディーンが答える。
「師匠に言われたこともありましたが…強く…なれるかと思ったんです」
「リューンを手に入れれば、か?」
「はい」
「何のためだ?」
ディーンは、ラピュータにいるであろう、魔族の女性を思い描く。
「大切な人を、守るため。今は、それです」
「そうか」

師弟は沈黙し、やがて、庵へと歩いていった。
空には月が昇っていた。


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