右の扉


ルートは、テレポストーンの力で、
ルナーにやってきた。
以前来たときと同様、常闇の地で、
風が強く、ヒースがたなびいている。
ルートはルナー城へと向かった。

ルナー城へと入る門番に、
ルートは声をかけようとした。
しかし、門番から、逆に声をかけられた。
「ディーン様のかかわりの方か?」
ルートは拍子抜けして、
「え、はい」
などと返事をする。
「顔を覚えることも門番の務め。御用があるのなら門を開きますが?」
「お願いします」
と、ルートは頼み、
ルナーの城門は、重い音を立てて開いた。
「あの、『右の扉』というものを知っていますか?」
開いてくれた門番に、ルートは尋ねる。
門番は…しばらく考えたが、
「案内します…おい、ちょっとの間、頼む」
と、もう一人の門番にその場を頼むと、ルートを『右の扉』へと案内した。

ルートは、門番に『右の扉』の前まで案内され、
そして、影のような『右の扉』の門番の前、深呼吸をした。
「『右の扉』へ入れてください」
影のような門番は、『右の扉』への錠前をガチャリガチャリとはずし、
扉のそばに立った。
入れということだろう。
ルートは再び深呼吸をした。
そして、扉に手をかける。
急速に吸い込まれるような感覚。
ルートは、扉の前から消えた。

重い闇の中、
ルートは目を覚ました。
大きな音がして、ルートは瞬時に覚醒しきった。
近く、音の方向を見れば、大きな…多分、武器が地にめり込んでいる。
そう、荒野のような地と重い闇。
ここはそういう空間のようで、
重い闇の向こう、姿を現したのは、巨人。
高さにして、ルートの倍ほどか。
ルートは剣を構えた。
(しとめる!)
ブラックの教え忠実に、ルートは巨人をしとめにかかった。
跳躍、そして、確実にしとめられるすべを、ルート特有の勘で算出する。
動物的なのとはまた違う、勘。
ルートは身体能力と勘を駆使し、
巨人の首をなぎ払った。

鮮血が飛ぶ。
ルートは返り血を浴びた。

血のにおいに、重い闇の奥から、何かが近づいてくる気配がある。
いくつもいくつも。
「封じられたモンスター…か」
ルートはつぶやく。
巨大なモンスターが…片手では数えられないほど、そこにいた。
(すべてしとめ、最強の剣を)
ルートはそれだけ考えると、
あとは目の前のモンスターを倒すことだけに集中した。
鬼気迫る表情の、血まみれのルートが、
剣を構え、手身近なモンスター…多分、獣と思われるものの足を一本切り落とした。
獣は痛みを感じるまもなく、返す剣で首をはねられた。
うろこの巨大なモンスターが襲ってくる。
ルートは首と胴体の付け根に剣をつきたて、
つきたてたまま、剣を横にないだ。
大量の出血。
うろこのモンスターはばたばたと暴れたが、
やがて絶命し、
その間、ルートは次のモンスターの命を止めていた。

いくつものモンスターの屍が、積みあがる。
何刻、モンスターを相手にしていただろう。
山のような…それこそ、巨大なモンスターの、山のような屍。
いくつ倒せども、モンスターは尽きず、
重い闇の向こうから、
いくつもいくつもやってくる。
屍の道を越え、ルートはモンスターを屠る。
ルートは精神力で持ちこたえていた。
集中力と精神力、そして、勘。
ルートは気がついていなかったが、それは桁はずれた能力だったに相違ない。
…しかし…
それは一瞬のことだった。

ルートがモンスターに剣を立てた一瞬、
剣はその過負荷に耐えられず、折れた。

剣を立てられた竜のようなモンスターは暴走し、
ルートを蹴飛ばした。
ルートはしたたか身体を打ち、
荒地に転がった。

(これで終わりなのか…)
(これ以上足掻けないか…)
ルートは、胸元に手を当てる。
返り血か、出血か…ぬるりとした感触と…
懐中に…

ルートは、胸から手を離し、
飛び上がって起き上がると、
暴走するモンスターに跳躍した。
その手には、以前テルに作ってもらった、ナイフがあった。
(アインスの地で命を絶とうとしたこのナイフで)
ルートは、竜の目を狙う。
(今度は生き残るために!)
ルートは竜の目に深々とナイフを突き立てた。

瞬間…
あまたのモンスターが消え、
そこには闇と荒野が残った。
ルートは、荒い息をつきながら、荒野に立ち尽くした。

『これほどの生きる意志は、初めてだな』
闇の奥、ほのかに光が見える。
『俺を使え』
ルートはナイフをしまうと、
光に向かって歩き出した。

光はつきたてられた一振りの剣だった。
ルートは引き抜き、構え、振る。
心地いい軽さと重み。
今まで持ったどの剣よりも、ルートになじんだ。
『俺こそが、ここに封じられたモンスター。ゴッドスレイヤーだ』

ルートは鞘にゴッドスレイヤーを収める。
すると、ゴッドスレイヤーのあった場所に、扉が現れた。
ルートは勘で思った。
これは出口、だと。
そしてその勘は、違わなかった。


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