名も無き火山島


一行は、ラピュータから外周に出た。
ゼロが、皆が出てきたことを見て、
羽ばたきをする。
「でも、この人数は乗るでしょうか…」
テルは不安げにつぶやいたが、
ゼロは任せろとでも言うように、生き生きとした目をした。
ルート、テル、ジュリア、フェンダー、クライル、ラミリア、ディーン、ジャクロウ。
すべてがゼロの背に乗った。
ゼロは大きく羽ばたいた。
手綱はルートが握っている。
「ゼロ!名も無き火山島だ!」
ルートは声をかけ、ゼロは名も無き火山島を目指した。

雲がいくつもすり抜けていく。
足元には大地、または海。
今で歩いてきた道。
今まで訪れた町。
出会った人、すれ違った人、
人は完全に正しいものではない。
それでも…出来ることをしたかった。

足元の海に、小さな船がある。
ルートは一瞬だけ視界の端にとらえたが、
すぐ、ゼロの手綱を取ることに意識を戻した。

小さな船には、
南瓜丸が乗っていた。
「私が間に合わないといけない!」
南瓜丸は、かぼちゃ頭をかぶったまま、
せっせと舟をこいでいた。
たどり着くのは、確実にルートたちのほうが速いだろうが、
それでも南瓜丸は、せっせと舟をこいでいた。
「ヒーローは遅れて登場するもの、しかし、間に合わないといけないのだ!」
南瓜丸は叫び、がんばって舟をこいだ。

そのころ…
「召喚したものの配備、整いました」
報告するのはマーク。
報告されるのは…
白い石で作られた大広間の奥、
大きな扉の前にある、豪奢な椅子にけだるげに腰掛けた…
…イリスだ。
昔の清楚な面影は、角度から見れば見えるかもしれない。
イリスは、あらゆる美しさ、
あらゆるものを、魅了する美しさを持たんとしていた。
「ごくろうさま」
イリスはマークをねぎらった。
「それにしても、聖地に裏口があったなんてね…」
イリスはけだるげに官能的につぶやいた。
「命を一つ燃やせば入れる火山からの入り口。ルナーの黒いドラゴンはこのために」
「よく知ってるわね」
「あなたが生み出してくれたから、使えることです」
「そう…私が生み出した、マーク」
イリスが手を差し出した。
マークが恭しく手を取る。
「あとは、この扉を開くだけ。扉の向こうのマルクトの力を使うだけ…」
「そして、世界を美しく、完全なものに」
「愛神ティフェレト、あなたの望んだこと…」
『そう、私であり、あなたの望んだこと…』
「私の望みでもある…」
『美しさは力…』
「美しさは力…」
イリスの中で声がする。
愛神ティフェレトの声が。
「ティフェレト…どうしてあなたは器をなくしていたの?」
イリスがティフェレトの力を継いだとき、すでにティフェレトには器が無かった。
『あれが醜い器になったがゆえ…』
「そう…」
イリスとティフェレトは、それで納得した。
『私の意識は失われない。私の思いを遂げるため』
イリスはティフェレトに共鳴していた。
ティフェレトの思いは、よく、わかる気がした。

ルートが、噴煙を認めた。
「名も無き火山島…ですね」
ゼロはそちらに向かっている。
海はぐんぐん後ろに行き、
名も無き火山島は、より近くにやってきた。
「ゼロ、少し高度を落としてくれ」
ゼロは少し高度を落とし、名も無き火山島の周りを旋回した。
小さな火山島だ。
ルートは、噴火口の近くに何か黒いものを認めた気がしたが、
噴火口からは入れない、と、海沿いに目を向けた。
海沿いから噴火口に向けて、
遺跡のようなものが並んでいるのを見つけた。
その海沿いの海岸なら、ゼロが着地できそうだ。
「ゼロ、あの砂浜だ」
ルートが示すと、ゼロは一気に高度を下げ、
砂浜へと降り立った。

一行は砂浜に降りた。
きれいな白い砂浜に、足跡がついた。

空から見た遺跡らしいものを見れば、
白い柱が、秩序正しく…それでも、どこか欠けた状態で、
ゆるい上り坂を描いて、奥へと向かって並んでいる。
「ここを進んでけってことか」
ジュリアがつぶやく。
テルはその横で、聖地への鍵の確認をする。
それぞれが、有事に向けての準備をした。
装備はラピュータで、ある程度そろえた。
それ以上、どうにもなるものでもない。

ルートは進みだした。
迷うことなく、奥へと。

ルートの勘が指し示していた。
聖地は、この奥にある、と。


次へ

前へ

インデックスへ戻る