歌う獣
夢をまといて歌をつなげ。
人は歌う獣なり。
この時代、歌というものが流行っている。
義声(ぎせい。のどを機械化すること)というものもあったりして、
どれだけ複雑な歌が歌えるかを競っている。
滅びた鳥のように、
滅びた獣のように、
高く低く、
吼え、叫ぶ。
それは人が獣に戻る前兆なのかもしれない。
表通りを店長は歩く。
みんな歌っていて気がつかないし、
歌っている連中は、
みんな滅びた動物のお面なんかをかぶっている。
パンダの店長は目立たない。
お祭り騒ぎのような表通り。
イベントか何かがおこなわれているのかもしれない。
騒がしい通りを、
店長は歩く。
ネットワークや電脳。
それが発達した時代に、
原始的な歌が流行すること。
歌、雄たけび、感情の暴発。
店長の中のパンダの血が騒ぐ気がした。
騒ぐのは性分ではない。
でも、内側で野生が騒いでいる。
店長の中の理性が騒いでいる。
あと少しで島が大変なことになる。
パンダの脅威を知らなかった島が。
店長は理性を取る。
そしてまた、歩き出す。
表通りは祭りだ。
どんな意味を持つ祭りなのかはわからない。
みんな思い思いに獣になって、
歌を歌っている。
最後の獣のために歌を歌おう。
夢をまといて歌をつなげ。
人は歌う獣なり。
店長は、最後の獣とは何だろうかと思った。
もしかしたら、自分のことをさしているのかもしれない、とも。
パンダ頭のポーカーフェイス。
それは崩れることを知らない。
空は高く遠く。
鳥に仮装している者が機械で飛んでいる。
そのうちその翼だけで飛べるかもしれないよ。
店長はそんなことを思う。
進化の果てには何があるんだろう。
人間の進化というものは、本当に進化だったのか。
ゆっくり電脳に頼って獣になっていたのではないか。
店長は祭りの中でそんなことを思う。
歌い、踊る、獣の格好をした人々。
パンダは一匹もいない。
店長だけ異質だ。
でも、仮装の獣は受け入れてくれている。
みんな獣だ。
歌う獣だ。
「ありがとう」
店長はつぶやく。
受け入れられていることは、素直にうれしいけれど、
「でも、いかなくちゃ」
店長はまた歩き出す。
祭りから離れるように。
歌が聞こえる。
獣の歌が。
人とは思えない声が。
これはこの世界が見ている記憶なのかもしれない。
この世界に生きてきた獣達を、
夢見ているのかもしれない。
夢をまといて歌をつなげ。
人は歌う獣なり。
店長は静かに祭りから去っていった。