ひょろり配線工


タムがベッドサイドで今日何をしようか企んでいると、
ドアをノックする音。
「どなたですか?」
タムはベッドを降りて、ドアに近づく。
「おはようさん、プミラですわ」
奇妙なイントネーションが答えた。
タムは扉を開ける。
そこには、ついこの間、ギミックをいじってもらったプミラがいた。
緑色の野球帽、白い髪、白いつなぎ。
いつもニコニコ笑っている。
「今日は何のようですか?」
「グラスルーツ配線をしに来ました」
「グラスルーツ配線?」
「はいな」
「それをするとどうなるの?」
タムは純粋にそう思った。連絡だけなら、ぶら下がっているスピーカーで十分なのだ。
「そうですなぁ…表側の世界の電話みたいなもの」
「うん、あるね」
「あんなふうに、こっちも向こうも同時に話せますわ」
「それだけ?」
「グラスルーツは、それだけやないとアイビーさんも言ってましたけど」
タムもそれはなんとなくわかる。
乾いてしまったベアーグラスは、グラスルーツに記憶を残してあるというのだ。
きっといろんな機能があるのだろう。
「まぁ、そないなわけで、今日は大掛かりにギミックいじりと、専門の配線工さん呼んできましたわ」
「はいせんこうさん?」
「専門の線をひいて、網目を作る職人さんですわ」
「へぇ…プミラさんは出来ないの?」
プミラはちょっと考え、
「網が通るようにギミックをいじるのが、今回の仕事ですわ。グラスルーツを編める職ではないもので」
「ふぅん、いろいろなんだね」
タムが納得すると、隣の部屋のドアが開いた音がした。
「設定完了でがす」
だみ声が丁寧に言った。
「ありがとう、早速使ってみる」
隣の部屋のネフロスの声がして、扉が閉まる音がした。
「終わりましたかいな?」
「へい、あっちは設定完了でがす」
だみ声が近づいてきた。
プミラの隣に立った。
ひょろりとしたもじゃもじゃひげの男だ。
頭ももじゃもじゃ。
薄緑色のつなぎを着て、ひょろひょろと長い配線と不思議な色の道具箱持っている。
「アスパラガスでがす」
「あすぱらがすでがすさん?」
「アスパラガス、でがす」
「アスパラガスさん?」
「そうでがす」
もじゃもじゃひょろりの男は、にんまりと笑った。
「そいじゃ、タムの部屋の配線をはじめますかいな」
「アジアンタムでタムでがすか。よろしくでがす」
「アスパラガスさん、よろしくお願いします」
アスパラガスはかがみながらタムの部屋に入ってきた。
ひょろっと背が高すぎるのかもしれない。
「ベッドサイドのテーブルに送受信機を取り付けますわ」
「それじゃ、配線はスピーカーのを生かしますでがす」
「たのんます」
「それじゃ、失礼しますでがす、ベッドに上がらせてもらいますでがす」
アスパラガスが靴を脱いで、ベッドに上がろうとする。
タムはぼんやり見ていたが、あわててベッドにおいてある、包みを拾った。
例の、おまけの包みだ。
「あ、失礼しましたでがす」
「んーん、いいの。しばらく持ってるね」
「踏んづけるところでがした」
「どっちも、きぃつけてな」
「アイアイサーでがす」
「ん、気をつける」

アスパラガスはスピーカーを取り外し、
プミラは送受信機とやらをベッドサイドのテーブルに取り付ける。
タムは電話みたいなものを想像していたが、
似ているようで、ちょっと違うらしい。
四角四面の赤茶けた立方体。タムの頭よりも大きい。上にベルが一つついている。
その真ん中に、大きなラッパ型の穴があって、手も突っ込めそうだ。
横にラッパ型2つついた、多分受話器みたいなものがぶら下がっている。
アスパラガスが配線を確認する。

ちりりんちりりん
ベルが鳴った。
「配線完了でがす」
「試しに使ってみますかいな?」
「どうやるの?」
「穴に手を突っ込んで、連絡先を思い浮かべてくださいな」
「それで通じれば、ベルが鳴りますでがす」
「連絡先…」
「顔を思い浮かべてくださいな。名前もあればもっとつながります。声もあればもっと」
「それで、話すのと聞くのは、横にぶら下がっているこれでやりますでがす。耳と口元に当てます」
「表側の世界の電話と一緒だね」
「グラスルーツの基本的な使い方ですわ」
タムは誰に連絡しようか迷った。
そして、受話器を上げると、未知の箱に手を突っ込んだ。


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