つながる送受信機
タムは送受信機の真ん中にある、ラッパ型の口に手を突っ込んだ。
プミラとアスパラガスが見守っている。
タムは真剣に、ネフロスを思い描いた。
ネフロスの顔、ネフロスの声、ネフロスの名前。
やがて、ベルが鳴る。
ちりりんちりりんと。
「はいなはいな、ここで受話器で話をするんですわ」
プミラが説明する。
タムはあわてて箱から手を引っこ抜くと、受話器を取った。
表側の世界のように、耳と口元に受話器を当てる。
『そっちにもついたのか?』
ネフロスの声がする。
「はい、とりあえず誰から話したらいいかなって」
『そうか、それで俺か』
「ええと、通じているみたいですね」
『こっちも問題なしだ。プミラとアスパラガスに伝えてくれ』
「はい」
タムは、短い通話を終えた。
「ネフロスさんと話してました。あちらも通信は問題ないようです」
「それはよかったでがす」
「それじゃ、ほかの部屋にも取り付けましょか」
「行きますでがすか」
プミラとアスパラガスは、
工具箱と配線を手に取ると、
タムに一礼して、タムの部屋を後にした。
扉が開き、閉まり。
やがて部屋には、タムと、風のシンゴが残った。
『へぇ、グラスルーツの箱かぁ』
シンゴはものめずらしそうに、送受信機の周りを回った。
「送受信機なんだってさ。でもってこれが受話器」
『うん、一応は見てた。へぇ…おもしろいなぁ』
「今までこのアジトにグラスルーツはなかったの?」
シンゴが考えるようにふわっと上に上がった。
『そうだなぁ、アイビーさんが管轄していて、アイビーさんが呼び出しするくらいしかわかんないな』
「何かあったのかな?」
『わかんない。俺、風だから』
シンゴは上から降りてきた。
『それより、アイビーさんに直接聞いたほうがいいんじゃないか?』
「アイビーさんに?」
『グラスルーツがつながってるんだぜ』
「そうだね」
タムは再び、送受信機に手を突っ込んだ。
アイビーの静かな声を思い出す。長い髪、静かな瞳…
ちりりんちりりんとベルが鳴り、
『そら出ろ!』
と、シンゴが茶化す。
タムは言われなくても受話器を取る。
『タム』
静かな声が呼びかける。
『グラスルーツの使い心地はどう?』
「え、あ、はい。快適です」
タムは一瞬、声など聞こえないのに、アイビーが静かに微笑んだ気がした。
『きっとあなたなら、見える』
「見える?」
『グラスルーツは、もともとある、住人たちの縁を強化したもの』
「えん?」
『知らないところで繋がっている者を、話せるようにしたギミックが、それよ』
「つながっている…」
『アスパラガスには会ったはずよね』
「はい、さっき」
『彼はもともとエリクシルの一員。配線工の職をつけて戻ってきたのよ』
「そうだったんですか」
『それでついでだから、プミラと一緒にあっちこっち繋げてもらってるのよ』
「あー…」
『なぜ、聞きたいことを先に言われたか、かしら?』
「はい」
『みんなつながっているのよ。形あるなしに関わらず、ね』
タムはやっぱりアイビーが微笑んだ気がした。
アイビーはきっと、グラスルーツの形ないところまで知っているのだろう。
タムはそんな気がした。
「彼女も戻ってくるでしょうか」
タムは知らずにつぶやいていた。
『約束をした。記憶はグラスルーツにある。あなたがいれば戻ってくる』
「はい」
『それじゃあ、仕事があったら鳴らすわ』
「はい」
タムは静かに受話器を戻した。
『どうだった?』
シンゴが話かけてくる。
「アイビーは何でもお見通しだった」
『さすがグラスルーツ管理は伊達じゃないなぁ…』
「みんなつながってるんだって、形あるなしに関わらず」
タムはアイビーの言葉をそのまま言った。
『俺もそう思う。なんだかわかんないけど、この世界はみんなつながってるんだ』
「そうかもしれない」
何かでつながっている。
それがアイビーのグラスルーツかはわからない。
もっと大きいのかもしれない。
シンゴはタムの髪をなで、カーテンと踊りに行き、
タムはベッドに転がった。