それぞれの帰る道


タム、ベアーグラス、メイの3人は、
清流通り一番街から、噴水の広場まで出てきて、
そこから、清流通り五番街を目指した。
五番街の通りに入ってタムは思った。
いわゆる、屋敷というものが多い気がする。
大きな、家が多いという印象だ。
それぞれに個性を打ち出そうとしているのか、
壁の色はあまり目立たないとしても、
屋根の色は様々だった。
茶色、赤茶色、青、緑、赤。
タムはアイビーに表示された、ワイヤープランツ男爵の屋敷を探し、見つけた。
白い漆喰の壁。テラコッタ色の屋根の屋敷だ。
門番などはいないようだ。
男爵というから、もっと偉そうなのを想像していたが、
実際、雨恵の町ではそう、大きく違うこともないのかもしれない。
メイが、屋敷の門を開けた。
重い金属の音がする。
「おとうさまー」
メイが声を張り上げた。
屋敷の中から、扉が開いた。
立派なくろひげを蓄えた、しゃんとした細身の中年がすっと現れた。
「メイ」
「おとうさまー」
メイは、ぽてぽてと、お父様にかけていくと、安心したように抱きついた。
「えりくしるのひとに、おくってもらったんだよ」
「よしよし、よく帰ってきた」
お父様はメイの頭をなでた。
そして、視線をタムに向ける。
「エリクシルの者らしいね」
「はい、アジアンタム、タムといいます」
「私は、ワイアープランツ。爵位は一応男爵だ。…娘をありがとう」
「エリクシルは、なんでも屋ですから」
タムは微笑んだ。
ワイヤープランツ男爵も微笑んだ。
「そちらのお嬢さんは?」
ワイヤープランツ男爵がベアーグラスのほうに視線を向ける。
タムがベアーグラスの代わりに答える。
「彼女は、こっちに来て間もないので、エリクシルのアジトに送る予定です」
「そうか、雨恵の町に居つけるといいね」
ワイヤープランツ男爵は、微笑んだ。
「支払いと連絡は、グラスルーツを通す。静かな声の人によろしくといってくれ」
「はい」
「それじゃ、メイ、彼らに挨拶を」
「うん、またあおうねー」
メイは大きく手を振った。
タムも手を振り返した。
ベアーグラスは微笑んだ。

タムとベアーグラスは、清流通り五番街へと出てきた。
「エリクシルは、なんでも屋?」
ベアーグラスがタムにたずねる。
「なんでも屋です」
「そうかぁ…」
「ベアーグラスさんは、記憶を取り戻したら、どうします?」
「そうだなぁ…」
ベアーグラスは空を見上げた。
ぼんやりした太陽が昇っている。
「記憶次第だけど、エリクシルにいるかもしれない」
「いてくれると、僕もうれしいです」
「なんで?」
「え?」
タムは答えに窮した。
なぜベアーグラスとともにいたいのだろう。
雨恵の町にいれば、グラスルーツを使って会話は出来るのに。
「僕もよくわかりません」
タムは素直に答えた。
「ただ、ベアーグラスさんと会えてうれしいし、一緒にいると心地いいんです」
「ふぅん…」
ベアーグラスは興味深いのか、そうでもないのか、
微妙に言葉を返す。
二人はしばらくもくもくと歩く。
やがて、噴水の広場にやってきた。
「タムは、何が好き?」
ベアーグラスはたずねる。
「働けること、おいしい水、そして、誰かに会える事…あまり思いつきませんね」
「ベアーグラスは、嫌い?」
ベアーグラスが、タムの顔色を伺うように、視線を投げかけてくる。
「んー…」
タムは考える。
「ベアーグラスさんは、大好きで、大事な人。また会えた人。そういう位置づけです」
「単純なようで複雑ね」
「いっぱい思うところがあるんです」
ベアーグラスは微笑んだ。
噴水の水が、さぁとなった。
黒い目は、タムがどきりとするほど美しかった。
「エリクシルのアジトに行こう。いろいろ取り戻したいの」
「え、あ、はい」
「ほら、道案内」
「はい」
タムは無意識にベアーグラスの手を取った。
少年少女、二人は歩き出す。
一路、エリクシルのアジトへ向かって。


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