高らかな神話


「わったしーは、ご紹介にあずかりましーた、ラセンイにーてございまーす」
ラセンイ博士は、大きな目をまんまるにして、自己紹介した。
「こっちらーは、助手ーの、ヒポエステス!」
「ヒポエステースでーす」
助手がぺこりと礼をした。
「これよーり、わたしーの、講義をしたいとおもいまーす」
ラセンイ博士は、高らかに宣言し、
多少オーバーな動きをして、手を握り締めた。
なんとなく、力強さは伝わってくる。

ラセンイ博士は、質素な台を講義台として、高らかに講義を始めた。
「このっ、あめぐーみの町はっ、かなーたより昔っ、女神によって作られたものでっす」
ラセンイ博士は、女神と言った。
タムは思う。
ネフロスがちょっと前に話してくれた、女というのを、
ラセンイ博士は女神としたのだろう。
「めがみーを、わたしーは、グッレードマッザー。…こほん。グレードマザーとっ呼ぶことにした!」
「グレードマザー、おおいなーる母でーす」
助手が補足を入れる。
ラセンイ博士はうなずき、
「グッレードマッザーは、表側の世界から、わっれわーれを切り離しましーた!」
ラセンイ博士が、手をあげたり、握り締めたり、開いたりしている。
「わったしーの、研究でーは。わっれわーれを、大いなる火からまもーるためでーす」
「大いなる火、研究では、ぼやけた太陽でーす」
「そう、ぼやけた太陽でーす」
ラセンイ博士は、強調して、続ける。

「太陽は近すぎると、わっれわーれを炎に包みます」
「近すぎーず、遠すぎーず、わっれわーれをあたたかく包むもの!」
「太陽はっ、そう約束されーた太陽なのですっ」
「約束のぼやけた太陽には、核があるはず!それを研究しています!」
「現在の研究では!」
ラセンイ博士は、ぴっと太陽を指差す。
「ぼやけった太陽には、核となる意思があーり、雨恵の町から、程よい距離を保っていまーす。」
「つつーみこんでくれているのでっす」
「包み込む太陽の核をっ、コードネームハツユキカヅラと呼んでいます!」
「これーは、博士の研究によって明らかになりーました」
「雨恵の町にっ何かがあるとするーなら!」
「まずは約束の太陽に、何かがあるはずでっす」
「そのときっどうなるのかーは、まだ、研究中なのでっす」

「わたーしの研究では、表側の世界にもっ、裏側の世界にもっ。わっれわーれは存在している!」
「両方に存在ーをしているのでっす」
「そしてっ、研究では!」
ラセンイ博士は、大きくうなずき、続けた。
「表側の世界でもっ、わっれわーれは一緒にいる可能性が、きわめて高い!」
「しかもっ」
「グッレードマッザーが守っている可能性がっ、極めてたっかい!」
ラセンイ博士がオーバーなアクションをする。
「わたーしの、仮説に過ぎませーんが、雨恵の町は、一種の共同体!」
「共同体っ!」
「グッレードマッザーが壊した時計の共同体!」
「共同体っ!」
「グッレードマッザーは、研究のためのっ仮の名前に過ぎまーせんが」
「今の時点では!」
「グッレードマッザーが、遠くに太陽を配置し、雨ーを降らせているのーです」

講義は続く。
「わっれわーれにとって、太陽は不可欠でっす」
「不可欠っ」
「おっそらーく表側の人間には、違う意味で必要なのでっす」
「現時点の研究では!」
「雨恵の町の、ぼんやーりした太陽はっ、女神からのっ!ただひとつの約束でありっ!」
「そしてっ!」
「コードネーム!ハツユキカズラ!という、われわれとのっ約束の太陽なのでっす」
「女神の太陽は、ただ一つ!」
「研究することが必要な!約束の太陽らしいのでっす!」
「グッレードマッザーの意思はわっかりませーんが」
「わっれわーれだけでも守りたかったとおもーうのです」
ラセンイ博士が一つ大きく息をつき、
また、話し出した。
「表側の世界では、腹に命を宿し、産み出すと聞きまっす」
「現時点の研究では!」
「わっれわーれは、グッレードマッザーの腹に宿っているものなのかも知れず」
「または!」
「わっれわーれは、グッレードマッザーの、箱庭で生きているのーかもしれない」
「かも、しれないっ」
「わっれわーれは、表側の世界の記憶を、あまり持っていないが!」
「いないがっ!」
「わっれわーれは、雨の下に平等であるっ。命として平等であるっ」
ラセンイ博士は息を吸い込み、
「わっれわーれは、共同体である。確かにっ」

ラセンイ博士が礼をした。
拍手が起こった。


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