錆色の町


リタはクロックワークの狭間の町の入り口に降り立った。
意識が少し混乱している気がしないでもない。
リタという名前も初めてならば、
この町をちゃんと見渡すのも初めてなのだ。
リタは町の入り口の門を見上げた。
「さびいろのまち」
リタは読み上げ、町に入っていった。
錆色の町並み。
金属の薄くした…トタンというのだろうか。
あるいは鉄製。銅製?
そういった素材の、錆の浮いた町。
時折、しゅうしゅうと蒸気が上がる。
煙ではないようだ。
リタは物珍しげにそれを見ていた。
定期的に、しゅーっ!しゅーっ!と、蒸気が上がる。
町のあちこちそうだ。
金属の管がうねうねとうねって配置されていて、
あちこちの金属の建物をつないでいる。
窓と看板の多い町だ。
それでも窓は蒸気で曇っている。
看板は金属で作られているらしいが、
それもやっぱり錆が浮いていた。

リタに、誰か行きかう人がぶつかったらしい。
「お、すまんな」
おじさんは、一礼して過ぎ去ろうとした。
「ここはどんな町なの?」
リタはたずねた。
「ここは、火の力で蒸気を作って、それで動いてる町さ」
「へぇ」
「火の力で精製された命が、俺たちさ」
「すごいね」
「なんだ、ここは初めてなのか」
「うん」
「それなら…いや、道しるべは必要ないか」
「なんで?」
「全ての道は、中央火球に通じている」
「中央火球」
「路地もいっぱいあるけどな。ま、行きたいように歩けばいいさ」
おじさんはそういうと、去っていった。
リタはまた、一人になった。
「どしたもんだろ」
リタはぼんやりつぶやく。
そして、通りを歩いた。
曇った窓がたくさんの通り。
リタは、ふと、曇った窓を覗き込んだ。
幼さの残る顔。
17歳で通用するかもしれない。
気がついたが、髪が長い。
「…女みたいな髪」
リタは一人愚痴た。
名前もひらめきとはいえ、女みたいといえばそうだし、
やっぱりリタは、
「どしたもんだろ」
と、つぶやきながら歩いた。
ごみごみしてはいないが、
蒸気で暑い町。
適度にむしむししている。
髪を意識すると、なんだかへばりついてくる気がする。
リタはふと、看板を見上げる。
「錆色の町のコーディネーター、います。初めての方は、ぜひ…かぁ」
リタは自分の服装を見た。
表側の世界の、緑の寝巻きと、雨恵の町の、タムのジャケット。
両方羽織る形になって、長い髪。
暑いわけだと思った。
リタはコーディネーターの店を探した。
蒸気の音が絶え間なく聞こえる。
奇妙な格好で、リタは通りを歩き、一つの店を見つけた。
「コーディネート・ベイリーズ。ここだ」
リタは扉を開いた。
店内には、様々の服、様々の帽子、様々のアクセサリー。
リタは、面白そんなものがそろっている、そう思った。
「おやおや、そんな変な格好で」
店の奥から、細くひょろ長いおばさんがやってきた。
「コーディネート・ベイリーズへようこそ。錆色の町ははじめてみたいね」
リタはうなずいた。
「じゃ、ちょっと整えようか」
おばさんは、服をいくつも取り出した。
いくつもリタにかざしてみては、あれでもないこれでもないとする。
「そうねぇ…白のカットシャツ、カーキ色のジャケットと黒のパンツ、ベルトはこれで…」
リタは妙に古臭いものがあてられた。
靴は大きめの黒。そして、髪は手早くゴムで結ばれた。
リタのそれまで来ていた服は、
いつの間にか消えた。
リタが新しい格好になってきょろきょろすると、
「あるべきところに帰ったのさ」
見透かしたように、おばさんが言った。
「こっちは町からの出費でやってるんだ。どこかの町のお金は要らないよ」
リタはなんとなく納得すると、おばさんに元気にお礼を言い、
壊れた時計をジャケットに入れて、
錆色の町を歩き出した。


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