中央火球広場


リタは新しい格好になって、
錆色の町を歩いた。
今度の格好は、心持ち通気性がいい。
髪もまとめてくれて、張り付くこともない。
リタは自然と笑みになりながら、
看板や、曇った窓の店を冷やかしながら歩いた。
上を見る。
看板がいっぱい、そして、蒸気でけぶっていて、
その上はほの暗い。
天井があるのか、夜なのかはわからないが、
蒸気がこれだけあるということは、上が見えない天井なのかもしれない。
真っ暗ではないということは、光源があるのだろう。

リタはてくてくと歩き、
中央火球広場へと出た。
中央には金属製の大きな球がある。
たとえば、人が20人くらい、手をつないで輪になって、
そのわっかのぎりぎりの直径というところか。
入れないように柵はついている。
球には、たくさんの金属の管がつながれている。
管はいろいろな通りに出て行く。
「これが火球ってやつかな?」
リタは、何か説明掲示板でもないかと探した。
程なくして、火球の近くに掲示板を見つけた。
「なになに…この火球は錆色の町の動力源。常に蒸気を作っています…かぁ」
リタは、火球から少しはなれた。
やっぱり、火球とやらは、ちょっと熱かった。
離れて、広場のごみごみした掲示板や、看板などを見ることにした。
この町ははじめてだし、
何かわかるかもしれないと。

上を蒸気の入った管がのびている。
あちこち、しゅーっ!と蒸気が上がっている。
ヘルメットをかぶった作業員がやってきて、
蒸気漏れを埋めている作業を見た。
なるほど、あんな仕事もあるんだなぁ…などと、リタは広場を歩いた。
リタは掲示板を見た。
紙媒体では湿ってしまうのか、金属が貼られている。
リタは一つ一つ見ていった。
「町のために働く人募集、町が出資をいたします」
「蒸気機関に反旗を翻せ」
「夜の演奏会」
「火恵の民になりませんか」
「人探しています」
「蒸気動力ならここ!」
「上級純蒸気をあなたに」
「あなたの命が力になります」
リタはいろいろ見ていった。
お店の広告がそのほかを結構占めている。
火恵の民とか、少し気になった。
記憶がないわけではないが、やつらはここから来ているのだろうか。
漠然とリタはそんなことを思った。
中央火球広場の近くで、演説が行われている。
蒸気の音でよく聞こえない。
リタは演説を聴きに行った。

どうやら、気になっていた火恵の民にならないかという演説らしい。
火恵の民は、水を敵にして、蒸気などを使わない。
新しい楽園を探しに行く民である。
楽園の場所は見つけてある。
あとは制圧するだけだ。
火恵の民にならないか。
そういった趣旨らしい。
聴いている者、通り過ぎる者。
リタはある程度聴くと、
そっとその場を離れた。
「どしたもんだろ」
リタはそっとつぶやいた。
てくてくと火球広場を歩く。
熱がある程度届くが、この程度ならまぁいいかと思った。
リタはベンチを見つけ、すとんと座った。
伸びをする。
「やっぱり、町に雇ってもらうのが一番かな」
どういう報酬が出るのかはわからないが、
とりあえずそれが一番かと考えた。
リタはそう決めると、先ほどの掲示板に向かった。
金属のゴミ箱を背負ったおじさんが、掲示板の前にいる。
「やれやれ…変な掲示物が多くて困るよ」
おじさんは軍手をはめ、
変な掲示物とやらを外しにかかった。
「あ」
リタは声を上げた。
「なんだい?掲示物見そびれたかい?」
「あの、町で雇ってもらえるっていうやつ…」
「ああ、これかい」
おじさんは軍手の手で指差した。
残っている。が、おじさんが外した。
「これも錆が浮いてきて読みにくいから、新しいのを貼るよ」
「そうなんだ」
「なんだい?町に雇ってもらうのかい?」
「そう思って」
おじさんは、新しい掲示物をリタに見せた。
「町役場に行くといい。地図はこれだ。火球広場を赤銅の門から行きなさい」
「ありがとうございます!」
リタはぺこりとお辞儀をすると、
町役場に向かった。


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