町役場の出会い
リタは火球広場から、赤銅のわりと大きな門を抜け、
それなりの通りに入った。
自動車とか言うものは無いなぁとリタは思った。
そんなに速く移動する必要がないのかもしれない。
リタは走り、大きな金属の建物を見つけた。
要所要所には鉱物を使っているようだ。
時折、きらっと輝く。
まずはどんな建物なのかを確認。
「錆色の町・町役場」
リタは看板を認め、中に入っていった。
シュー…シュー…
中は空気が流れている。
蒸気が冷やされ、一定方向に流れているようだ。
リタはとりあえず受付に行った。
受付嬢が丁寧にお辞儀した。
「あの、雇用や人材ってどこですか?」
「登録でしょうか?」
「はい」
「では、3番の窓口にお進みください」
「ありがとう」
受付嬢は、また、お辞儀をした。
リタは3番の窓口に来る。
「あの、人材登録に来ました」
町役場の職員が、うなずくと、金属の板を1枚出してきた。
薄いが、折れ曲がるものではないらしい。
それと、ペンを一本。
「名前その他を書いてください。そのあと壊れた時計で登録を行います」
「どうも」
リタは、椅子の並んでいるところに適当に席を取り、
記入に入った。
「名前、リタっと…」
リタはそれだけ書くと、困ってしまった。
特技やなにやら、住んでいる場所もない。
「困ったな、来たばっかりなんだよな」
リタはとりあえず一通り、困り。
名前とサインだけ記入した金属の板を持って、3番の窓口へ向かった。
窓口では、一通り金属の板を見られた後、
「来たばかりの方のようですね、では、特性などは壊れた時計から読み出します」
慣れた様子で、リタから壊れた時計を受け取り、
蒸気のあたる機械らしいものに入れた。
しゅーっ!と蒸気の音とやや熱い気配。
「読み出しを終えました。派遣先を検索しています。しばらくお待ちください」
「はい」
壊れた時計はきれいに拭かれて返され、
リタは椅子に座って呼び出しを待った。
蒸気の熱を一度冷やし、流す感覚。
どちらかというと、からっとした流れ。
リタはぼんやりと、涼しい中にいた。
外から比べると、涼しすぎるかもしれない。
隣に誰か座る感じがした。
「ふー…冷蔵庫だよ、まるで」
隣の人は、そういって、また、ため息をついた。
リタは隣人を見た。
白のシャツ、青のジーンズ、ぼろぼろの靴。
髪は黒でショート、目は黒い。少し華奢に見える。
年齢は16か17か。
今のリタと同じくらいかもしれない。
「ん?」
隣人はリタの視線に気がついたらしい。
「あんたもなんか町役場に用事?」
リタは隠すこともないので、
「はい、人材登録に」
「へぇ、僕もだよ」
一人称は僕、らしい。しかし、声は間違うことなく女だ。
「僕はスミノフ」
「僕は、リタです」
「なんだ、名前まで女みたいじゃないか」
スミノフは眉をひそめて見せた。
「髪が長いから、女じゃないかと思ったら男だし。この町はめちゃくちゃだ」
スミノフは勝手にこの町の所為にした。
リタはそんなスミノフが嫌いじゃなかった。
「スミノフは来たばかり?」
「ちょっと前にね。あちこち歩いたけど、やっぱり町に雇ってもらおうって」
スミノフは涼しい風を浴びる。
短い髪がさらさらとなる。
気持ちよさそうなその顔は、やっぱり女性のそれだと、リタは思った。
「リタさん、スミノフさん」
3番窓口から声がかかる。
「ありゃ」
「一緒かな」
スミノフは面白そうに笑った。
3番窓口には、
二人に金属の板が用意されていた。
先ほどの記入用とは違い、片方の手のひらサイズの薄い板だ。
「お二人には、プロジェクト・リキッドに参加していただきます」
「なんだそりゃあ」
スミノフが素っ頓狂な声を出す。
リタだって、同じような心境だ。
プロジェクトなんてついたら、胡散臭いことこの上ない。
「蒸気伝言で連絡はついています。その地図の場所へ向かってください」
二人は金属の板を取る。
名前と、なにやらよくわからない記号と、地図がある。
「やるっきゃないか」
スミノフが、にっと笑った。
リタも笑い返した。
二人は町役場を後にして、錆色の町に出た。