サボテン治療屋


タム、プミラ、アスパラガスは、
一通り話を聞くと、グラスルーツ管理室を出た。
プミラとアスパラガスは、
一度部屋に戻り、工具を取りにいく。
タムは一人で行くわけにもいかず、
アジトの一階で二人を待っていた。
やがて二人は工具を持って戻ってくる。
不思議な色合いの工具箱だ。
「タムは、責任重大やでぇ」
と、プミラがおちょくる。
「僕だってがんばれますよ」
タムはすたすたと扉に向かう。
歩幅の大きなアスパラガスが追い抜いて、扉を開ける。
「行くでがす」
もじゃもじゃの中から、笑顔が見える。
タムはちょっと照れくさくなった。
扉を出る。
ぼんやりした太陽が見える。
扉を閉めると、きちきち、チーン、ガチャリ、と、音がした。
いつもの施錠らしい。
「さぁ、行くでがす」
「タムはサボテン治療屋の位置は、わかってるん?」
「いえ…」
「清流通り二番街の奥でがす」
「二番街…」
「命の水取引商があるなぁ、そいで、命の水も、カビ除けとかに使うさかい」
「だから、二番街」
「そういうことでがす」
三人は、池のふち二巻から、清流通り三番街へと出る。
そして、中央噴水へと向かい、
そこから、清流通り二番街へと入る。
いつものように雨恵の町の住人が行きかいしている。
上から看板がいくつもぶら下がっている。
読める看板読めない看板。
路地もいくつも見える。
底有り沼一巻という看板を通り過ぎた。
命の水取引商の場所だ。
「今日は関係ないで」
プミラがタムの背中を叩く。
タムはなんとなく、路地を見た。
命の水を書いてある看板看板の、少しだけが見えた。
タムは、首にかけてある銃弾を意識した。
緑のだぼだぼのジャケットに隠れている、銃弾。
スミノフ2つと、スピリタス。
扱えるだろうかと歩きながら考えた。
ベアーグラスは、連弾して水を浴びている。
ネフロスだって、大量の水を浴びていた。
僕は…
「ごちゃごちゃ考えるな…でがす」
タムはアスパラガスを見上げた。
アスパラガスは笑った。
「…って、ネフロスに言われたことがあるでがす」
「あいつらしいなぁ」
プミラは、笑った。
タムも、こんな状況なら、ネフロスはそういうだろうと思った。
「今日はお見舞いさかい。使うことはないやろうけど…」
「けど?」
「わてらも一応銃弾もってはきているさかい。なんかあったら頼りにしてな」
タムはうなずいた。
「ああ、見えてきたでがす」
清流通り二番街の奥、
どん詰まりのそこに、大きな建物があった。
屋根がいっぱい、窓がいっぱいで壁がなかなか見えない。
あちこちに、アンテナらしいものが立っている。
それは棘のように無数に立っている。
大きな建物が、表側の世界のハリネズミのように見えた。
プミラがため息をついた。
「無線使おうとするにも、程があるさかいに…」
「有線に切り替えるでがすか?」
「そうやな、ちょっと大工事になるで」
「連絡は行ってるでがすか?」
「わからんなぁ…これだけ無線使うと、混線するやろなぁ…」
プミラとアスパラガスは、口々にサボテン治療屋のことを言っているらしい。
どうやら、グラスルーツが無線というのは、あの棘のようなアンテナらしい。
有線というのは、きっと、アジトで使われているようなのなのだろう。
混線というのをすると、連絡がつきづらいのだろう。
「それじゃ、悩んでても仕方あらへん。いきまっか」
「いくでがす」
「うん」
三人は、サボテン治療屋へ向かった。

「入り口でボタンを押してください」という表示がある。
確かに治療屋の入り口に、大きなでっぱりがある。
プミラとアスパラガスは、入り口の近くのスピーカーと話をしている。
「ちょいと大きな工事になるさかい、連絡行ってますでしょうか」
プミラがスピーカーに向かって話しているのを尻目に、
タムはボタンのところに駆け寄り、
ボタンを押した。
ざぁ…
落ちてくる大量の水。
「わわわ」
タムはあわてて戻ってきた。
「あれは、消毒の水でがすよ。薬は入ってないでがすが、水で一度消毒して、入るのでがす」
アスパラガスが、説明した。
「びっくりした…」
「よっしゃ、話しついたで」
「それじゃ、工事にかかるでがす」
「タムは水浴びたし、そのままお見舞いいくさかい」
タムはこくりとうなずくと、
にじまなかったリストを頼りに、お見舞いへと向かった。


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