偽弾の意味
ポリシャス町長が、指揮して、あちこちの被害確認をする。
火恵の民は、倒されたら燃えて、
跡形もなくなったという報告があった。
サボテン治療屋にも被害はなく、
タム、プミラ、アスパラガスは、それらの報告を聞き、アジトに戻ることにした。
ポリシャス町長と、治療屋の銀河楽が見送った。
三人は、清流通り二番街を歩く。
タムは相変わらずどこかふらふらしている。
プミラが手をつないでくれた。
「迷子にならんどいてな」
「うー」
タムは無意味に返事した。
ふらふらする。
そのタムを、プミラが引っ張ったり、アスパラガスが支えてくれたりした。
「はじめてで、これだけ出来るなんぞ、そうそういないで」
「そうですかー」
「偽弾使ってるのも、あるだろうけどなぁ」
「その、偽弾ってなんですか?」
タムは、実はよくわかっていない。
それでも、使った。
プミラが説明をしてくれた。
「偽弾は、命の水の偽物や」
「にせもの?」
「せやから偽の銃弾で、偽弾や」
「でも、覚醒は出来ました」
「覚醒は、銃弾の力や。偽弾は、銃弾の力を広げたり、抑制したりするんや」
「広げたり抑制したり?」
プミラはうなずく。
「偽弾はそのままでは覚醒できひん。銃弾と連弾して、はじめて覚醒できるんや」
タムはふらふらと考える。
「じゃあ、ほかの偽弾を使えば、また違う覚醒になるとか?」
「ま、そういうことやな」
「すごいや…ととと」
タムがふらふらと倒れそうになる。
後ろからアスパラガスが支えた。
「気をつけるでがす」
「ありがとう」
「もうすぐ中央噴水や。三番街のアジトまであと少しやさかい。もうちょっとがんばってな」
「それで、水を浴びるでがす」
「うん」
タムはうなずき、また、歩き出した。
清流通り三番街。池のふち二巻。
アジトのある路地に入る。
「ただいま帰ったで」
プミラが扉に声をかける。
キリキリキリキリと、ドアの内側でかすかに、歯車やギミックの動く音がする。
チーンと、安っぽい金属の音がして、
ドアノブが動いた。
彼らは扉をくぐる。
扉はギィと閉まり、
ガチャ、チャカチャカ、チーン、と、ロックがされたらしい。
「まずはアイビーに報告やな」
「はい」
タムはおぼつかない足取りで歩いた。
グラスルーツ管理室に、ノック。
こんこんと。
「どうぞ」
アイビーの静かな声が入室を促す。
三人はグラスルーツ管理室に入った。
「工事が終わったようですね」
プミラとアスパラガスはうなずいた。
「いい仕事ですね。送信受信ともに感度良好です」
「ありがとさん」
プミラは、にっと笑った。
「タムも、お見舞いをありがとう」
「はい」
答えてまた、ふらついた。
「ポリシャスから連絡がありました。火恵の民のこと、タムまで覚醒したことを」
「ポリシャス町長が、偽弾をくれて…」
「そのようですね。しかし、偽弾をくわえたとはいえ、今はふらついていることでしょう」
「…はい」
「水を浴びなさい、いっぱい。そうして、命の水を一度流しなさい」
「はい」
タムはぼんやりと答えた。
アイビーは静かに言う。
「養女のチャメドレアが火恵の民と組んでいる、と」
「おそらく、でがす」
「チャメドレアはね…」
タムが割り込む。気分がふわふわで、自分でもなにを言っているか、わからない。
それでもタムは続けた。
「チャメドレアはね、ユッカの身体をさがしてるんだってさ…それが、サボテン治療屋にあるんだって」
アイビーは、静かに目を閉じ、考えた。
「ユッカの身体…」
アイビーはそれだけつぶやき、
「さぁ、水を浴びなさい。クロに頼むのを忘れずに」
「はい」
「お疲れ様でした」
アイビーが彼らをねぎらい、彼らはグラスルーツ管理室を後にし、
クロの泉へと向かった。